消費税が1%になった場合、農家への給付が検討される理由

草加市の税理士、横山です。

現在、消費税の食料品について、2年間限定で軽減税率8%を1%へ下げる案が浮上しています。
この秋の国会で審議され、来年2027年4月から2年間の時限措置として実施する方向とされているようです。

これと合わせ、生産者である農林漁業者に対し、税額軽減による収入減に対応するための給付制度が検討されているとの報道もあります。
「消費税が下がると、農家が損をする」という流れが直感的にわかりにくく、一部に誤解も見られます。

消費税が下がることへの影響

まず、「消費税の影響」と一言でいっても、さまざまなケースが考えられます。
消費税について、事業者は、次のように区分され、減税の影響も異なります。

  • 課税事業者(原則(本則)課税)
  • 課税事業者(簡易課税)
  • 免税事業者

原則(本則)課税の場合

まず、原則課税の事業者は、仮に消費税が1%になっても消費税について基本的には影響はありません。
原則課税では、売上にかかる消費税額(仮受消費税)から仕入にかかる消費税額(仮払消費税)を控除して納税額が決まります。
消費税の変動により売上への影響はあるかもしれませんが、売上に係る消費税額が減少する一方、仕入れに係る消費税額は控除できるため、税率引下げによる負担がそのまま農家の負担になるわけではありません。

売上に係る消費税額が減少する一方、肥料・農業用品といった仕入にかかる消費税の多くは10%で変わりません。
還付になるケースもありそうです。

簡易課税の場合

基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、届出をすることにより、消費税の計算を簡易課税で行うことができます(詳細な条件は省略します)。

簡易課税の事業者は、仕入にかかる消費税額の計算に、「みなし仕入率」を用います。
売上にかかる消費税額から、事業区分に応じたみなし仕入率を使って計算される仕入税額を控除して、納付税額を計算します。
米、野菜等の食品に関する農業の事業区分は第2種事業とされ、その場合のみなし仕入率は80%です。

本体価格が10,000円として計算すると

  • 現行税率8%の場合
    売上にかかる消費税800円
    仕入にかかる消費税640円(800円×80%)
    差引納付税額 160円
  • 税率1%になった場合
    売上にかかる消費税100円
    仕入にかかる消費税80円(100円×80%)
    差引納付税額 20円

となります。

ただ、農業の場合、簡易課税を選択することが有利なのかという問題があります。
農産物の売上に係る消費税は8%(改正案1%)であるのに対し、仕入のときに払う消費税は多くの場合10%です。
一方、仕入税額の計算では売上の税率である8%(1%)を使用します。

実際の仕入率がみなし仕入率と同じであった場合、仕入にかかった消費税10%分を控除しきれないことになります。
簡易課税の場合、還付も受けられません。

一方で、簡易課税制度の本来の趣旨は小規模事業者に対する事務負担の軽減にあります。
消費税の納付額を基準として考えなくても良いのかもしれません。

免税事業者の場合

前段の話が長くなりましたが、ここからが本題です。

基準年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税については免税事業者であり(細かな条件は省略します)、消費税を申告・納付する必要はありません。
ただし、課税事業者を選択することもできれば、インボイス登録をすることで課税事業者となることもできます。

免税事業者の場合、もともと消費税を納める必要がありませんので、食料品に対する消費税率が下がったとしても、何の影響もないはずです。

しかし、現実には次のような問題があります。

免税事業者農家の問題とは

まず、報道によれば、

財務省によると、2023年度時点の農林水産業の免税事業者数は推計で約69万8000に上り、77%を占める。他の業種は4〜5割台で、突出している。

引用:日経電子版記事 「食品消費税ゼロが映し出す農家の「特権」 益税消失、事業者の77%」 

とのことで、77%の農林漁業者は免税事業者とのことです。

農家以外の個人事業主の方では、課税売上高が1,000万円以下であっても、取引先との関係でインボイス登録をせざるを得ないこともあります。
そのため、免税事業者の割合は引用記事にあるように4~5割程度にとどまっています。
農作物も最終的には、スーパーや八百屋などの事業者に販売されるため、農家もインボイス登録が必要なようにも思います。

しかし、農家については、「農協特例」という制度があります。
農家が農協を経由して行う「無条件委託方式かつ共同計算方式」の委託販売については、農家が免税事業者でも、農協がインボイスを発行することが認められています。

このインボイスのおかげで、スーパーなどは仕入税額控除が受けられます。
同様の仕組みは、卸売市場を通じた一定の委託販売について「卸売市場特例」が認められています。
参考:農林水産省「農協・卸売市場に出荷している方」

仮に本体価格10,000円の生産物であった場合、現在の消費税8%のもとでは、農協等の請求書は

  • 10,000円+800円

となっているのに対し、仮に消費税が1%となった場合、

  • 10,000円+100円

と、入金額が大幅に減少してしまいます。

これを手取りの減少とみるのか、あるいは、税制上やむを得ないとするかは、考え方の問題です。

本日のまとめ

食料品の消費税率を軽減した場合に備え、農家に対する給付金が検討されていると報道がされています。
これに対する意見はさまざまですが、消費税制度に対する誤解も生じ、議論が噛み合っていないように思うこともあります。

ちょっと内容を整理してみました。

ただ、給付に関しては、

  • 課税事業者、簡易課税事業者、免税事業者で対応を分けるのか
  • 消費税軽減の影響を受ける小売店、飲食店等への対応とバランスがとれるのか
  • 園芸農家など、食品以外を生産している農家への対応をどうするか
  • 金額をどのように計算するのか

など、課題は多いと思います。

また、一部報道では、農家対し、税理士費用の支援も検討されているとのことです。

食料品の消費減税、農家らの税理士費用を支援 売上高で給付も検討 - 日本経済新聞
政府は食料品の消費税減税を巡り、小規模な農家などを対象に税理士費用を支援する方針だ。仕入れの際に支払った消費税の還付を受けやすくなる本則課税事業者への移行を念頭に、負担軽減につなげる。政府側が2日の自民党税制調査会の会合に支援方針を示した。政府の基本方針では食料品の消費税率を2027年4月に1%に引き下げるのに伴い、影...

こうなると、税理士費用を支援なしで行っている事業者とのバランスにも考慮が必要になりそうです。