複数人が関係か ~ 人気漫画家被害の巨額横領事案

先日の報道によると、ある著名漫画家の方が、46億円もの横領被害にあったとのこと。
おそらく、個人が被害にあった金額としては、類をみない金額です。

漫画家・車田正美さん横領被害訴え、28億円超求めマネジャーら提訴 - 日本経済新聞
「聖闘士星矢」で知られる漫画家の車田正美さん(72)は2日、代表を務める「車田プロダクション」など3社が横領被害に遭ったとして、マネジャーの男性らに計約28億9千万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。東京都内で記者会見した車田さんは「アニメや漫画の世界で悪い人間は見たことがない。本当に信じられなかった」と話し...

被害金額の大きさや、被害者が著名な方というだけでなく、複数人が関係していることも異例です。

事案の概要

各種報道を総合すると、今回の事案は、

  • 被害にあったのは、人気漫画家
  • 提訴されたのは、元マネージャーら
  • 発覚の端緒は東京国税局からの指摘
  • 2018~24年にかけて46億円が横領される
  • 18億円は弁済され、残額の28億円あまりの損害賠償を求めて提訴
  • 被告は、元マネージャーのほか、弟や知人ら個人が7名、法人が4社
  • 横領の手口は、漫画作者に著作権管理会社を3社設立させたうえで、類似社名の会社を別途設立し、
    ① ライセンス料を類似社名の口座へ振り込ませる
    ② 会社の口座から自分の口座へ入金
    ③ 再保険と称し、海外送金したうえで、自分の会社へ入金
  • 横領した資金の使途は、暗号資産(仮想通貨)への投資

といったものです。

会社の設立とインターネットネットバンキング

財務捜査の現場でも、容疑者が会社を設立し、その口座にインターネットバンキングを使い不正に資金を振り込ませる手口は何度か扱ってきました。
今回の事案では、送金方法について直接の言及は見られませんが、金額から見てもインターネットバンキングの可能性は高いものと思います。

「会社を設立する」といっても、平成18年に施行された会社法により、最低資本金制度は撤廃され、また、機関設計の柔軟化により取締役1名でも株式会社が設立できるようになり、設立自体は難しいことではありません。

また、会社名についても、類似商号規制が廃止されているため、同じ市区町村であっても住所が違えば同じ会社名を名乗れるようになっています。
また、商号には法人格も含まれるため、「株式会社ABC」と、「ABC株式会社」は別商号となります。
(なお、誤認されるおそれのある商号等については、会社法や不正競争防止法に抵触する可能性があり、一切の責任を問われないということではありません。)

このように会社を設立し、インターネットバンキングを利用すれば、会社の資金を容易に移すことができてしまいます。
こうなると、億円単位の横領事案がいつ発生してもおかしくない状況です。

複数人による関与の可能性

今回の事件で気になるのは、提訴されたのが、個人7名と法人4社と報道されている点です。
個人7人ということは、これだけの人数が関与しているということです。
関係性は不明ですが、不正を共謀し、あるいは、協力しあっているということは、組織的な不正といえます。

キックバックなどの背任事件では共犯事件も多く見られますが、横領事案は、通常、1人で行われます。
横領は1人でも実行が可能なうえ、行為自体、目の前にある「預かり保管中」のものを誘惑にかられて自分のものしてしまうというというのが基本です。
現金が入った金庫の管理を任された経理職員が、これを着服するというのが典型的なスタイルです。

複数人による横領というのも少ないように思います。

こうなると組織内部で不正を防止するのは相当難しくなります。
ただ、国税局からの指摘で発覚したということは、第三者が関与すれば防止できた可能性はあります。

すべては網羅できないにしても、

  • ライセンス契約など契約の管理
  • 預金口座、資金移動の把握
  • 帳簿、決算書のチェック

といったポイントだけでも、独立した第三者による監査、チェックを受けていれば結果は違ったかもしれません。

横領がどのような形態であったとしても、実効的に防止するには「チェック」以外ありません。

本日のまとめ

今回の事案は、高額な被害金額、また、被害者が人気漫画家ということで大きく報道がされています。

これに加え、類似社名を利用した、複数人の関与が疑われる点に特徴があるように思います。

不正を防止するには、内部統制を有効に働かせるのが基本ですが、法人化をしたといっても、漫画家の方が社長として社内を統括することは実際上難しいのだろうと思います。
その場合、ある程度、マネージャーなどに管理を任せることにはなりますが、独立した外部によるチェックなどを検討することになりそうです。

不正の防止には、チェック機能が必要だという本質は変わらないように思います。