7月23日付け日本経済新聞の夕刊記事に2件の架空発注不正が掲載されていました。
同じ日に2件の架空発注記事が掲載されるのは珍しいように思います。
横領事件の増加については、先日ブログに書いたばかりです。
体感的ではありますが、架空発注による不正も増えてきていると感じます。
また、意外に感じた事件内容でもあります。
2件の架空発注
日本経済新聞に掲載された2件の架空発注記事はこちらです。
1件目は、大手製鉄会社の元社員ら3人が取引先業者と共謀し、10年間にわたり架空発注を繰り返し、取引先からキックバックを受けていたという内容です。被害総額は3億円超とも書かれています。
他の報道によると、架空発注の名目は潤滑油で、キックバックの内容は、現金や飲食のほか、総額400万円以上がチャージされたICカードや、トレーディングカードも含まれていたとのことです。
逮捕容疑は、詐欺罪です。

もう1件は、大阪の生コンクリート製造販売会社の前代表取締役が取引先と共謀し、31回にわたりセメントを架空発注し、振り込まれた代金を容疑者どうしで分けていたという内容です。
犯行期間は約2年間で、1億3,000万円が支払われたとあります。
逮捕容疑は会社法違反(特別背任罪)です。

2件の共通点
今回の2件の事案での共通点は、「潤滑油」、「セメント」という物品という点です。
この点は、意外です。
私の財務捜査の経験では、架空発注では「工事代金」のような役務が多かったように思います。
架空発注を行いやすいのは、役務提供です。
工事台帳などと対照すれば架空性はわかるかもしれませんが、物に比べチェックするのは困難です。
これに対し、物品の場合、物の受け払いが発生します。
この点、不正がバレないようにするのが実務上困難です。
仮に架空発注しても、第三者が受け払いを管理していれば、発注した商品が届いていないことが分かってしまいます。
発注伝票があり、倉庫に物品が納入されなければ不審ですし、棚卸数量も合わなくなります。
発注者と物品管理が同一であったか、あるいは、管理が行われていなかった可能性があります。
特に、生コン会社の場合は、代表取締役が容疑者となっており、この点、不正は容易だったのかもしれません。
生コン会社の架空発注事件の端緒は、会社側からの事件相談とのことですので、代表者の交代、あるいは、他の幹部が気が付いたことが考えられます。
2つの事件の相違点
2つの事件とも物品の架空発注という点では共通ですが、逮捕容疑が「詐欺」と「特別背任」で異なっています。
この違いは、容疑者の立場から来ていることが考えられます。
製鉄会社を舞台とした架空発注の容疑者は、元「社員」です。
実際には納入されない潤滑油の発注書を作成し、取引先に対し虚偽の請求書を会社に送付させています。
経理担当者は、嘘の請求書だと知らずに、支払処理について上司の決裁を受けています。
つまり、会社は「騙された」として、「詐欺」になります。
一方、生コン会社を舞台とした架空発注の容疑者は、前「代表取締役」です。
手口としては、同様ですが、会社の代表者は架空請求書と知って支払の決裁をしています。
詐欺の構成要件の一つである、「錯誤」つまり、誤認という状態を欠くことになります。
このような場合には、代表取締役として会社の財産を保全する立場でありながら、会社に損害を与える目的でその任務に背いたとして「背任」(会社の役員の場合「特別背任」)が問われることになります。
本日のまとめ
このところ、架空発注の事件が増えているように感じます。
取引先と共謀して行われるため、発注、納品、請求までの書類が一式揃っており、売掛金・買掛金の残高等にも矛盾がなく、不正の発見が遅れがちです。
今回は物品の発注なので在庫管理がしっかりしていれば防げた可能性はありますが、役務の場合は困難です。
実際には、発見されていない架空発注事案は多いのではないかと思います。
企業としては発注と検収・在庫管理を完全に分離することが重要です。
それにしても、かつて生コン会社で経理をしていた立場から、セメントの架空発注には驚きました。
発注したセメントは、品種ごとにセメントサイロに納入されますが、その容量には限界があります。
架空発注をすれば、数字上、サイロに収まらないように思います。
また、骨材と並んで主要原料であるため、数量も細かく管理されています。
代表取締役の立場だから、行えた事案なのかもしれません。


