2025年6月9日、警視庁は仮装身分捜査により、特殊詐欺グループの実行役を詐欺未遂容疑で逮捕したとのことです。

SNS上での実行役の募集投稿に対し、架空の身分証明書を提示して応募。
詐欺グループの一員に接触し、摘発に結び付いたようです。
期待される捜査手法
「仮装身分捜査」では、捜査員が別人物になりすまし、犯罪グループに接触することが可能となります。
発生した事件を検挙するのは大変な労力がかかりますし、実際に被害も発生してしまいます。
特殊詐欺グループのような組織的犯罪については、捜査員がその組織に入り込んで検挙するのが効果的です。
「潜入捜査」については、私もFBIで講義を受けたことがあります。
そのときのケーススタディとして取り上げられたのは、「Wooden Nickel Operation」。
外国為替取引に関する大掛かりな詐欺事件捜査の事例でした。
潜入捜査がなければ摘発が困難な事件であり、その役割が大きい一方、事前訓練を十分に行ったうえでの運用、捜査員の精神的負担、安全面での組織的フォローにも取り組んでいるとの話が印象的でした。
「仮装身分捜査」と潜入捜査に違いはありますが、捜査員の負担を考えると難しい捜査手法とも感じています。
捜査員の負担
仮装身分捜査で考えられる捜査員の負担には、次のようなことが考えられそうです。
精神的な負担
捜査員が自分とは別の人物に成りすますというのは、それだけでも精神的負担が生じそうです。
短期間的であればともかく、長期にわたり偽りの身分で生活を送るとなると、もう一人の自分との切替が難しそうな感じがします。
名前も架空、住所も架空です。
仮装身分証明書に書かれた住所に住むのかもしれません。
家族や友人にも業務の話はできないと思います。
もちろん、一般の警察官でも、家庭内ではオープンにできない仕事の話もあります。
ただ、秘匿性が強いため、仕事の中身はもちろん、関連する内容についても一切話せないというのは、人間関係にも影響しないのか気になります。
業務遂行中の課題
捜査員が身分を仮装して、犯罪組織と接触したあとにも課題がありそうです。
- 接触状況などの定期報告をどうするのか
- 身分がバレたときの対応
- 犯罪に加担することとなった場合の対応
- その他、不測の事態への対応
など、業務遂行中にも、多くの課題に直面しそうです。
業務終了後の安全
仮装身分捜査によって、無事、犯罪組織の一員を検挙できたとしても、それで終わりではありません。
偽の身分証明書を犯罪組織に提示しているため、顔写真は先方に残っている可能背があります。
また、接触したことによって、先方は人相も記憶しています。
検挙後に捜査員が今までどおりの生活を送るには、組織のバックアップが欠かせません。
また、事件が起訴されれば、裁判も行われます。
仮装身分捜査の内容についても、公判で触れられるかもしれません。
きちんとしたフォローがないと、安心して日常生活を送るのが難しくなるのではと感じます。
本日のまとめ
別の記事によると、仮装身分捜査については十数年来検討されていた手法とのことです。
その間に十分に問題点などがピックアップされているはずです。
おそらく、私があげた問題点は、とうに検討され対策が立てられていると思います。
仮装身分捜査は、有効な捜査手法として注目されますが、さらに深く組織に入り込むのは容易ではなさそうです。
今回の逮捕事実も「詐欺未遂」容疑です。
詐欺が行われる前の検挙です。
仮装身分は許されても、捜査員が詐欺組織の中で詐欺を行うことは難しいのだと思います。
別記事によると、仮装身分捜査以外にも、架空名義の口座を開設し、そこから資金トレースを行う方法も検討されているとのこと。
これまでの捜査手法に、新たな捜査手法を複数組み合わせて捜査を進めるようです。
財務捜査についても、新たな手法が生み出されるのではないかと思います。