三菱UFJ銀行の元行員が、支店の貸金庫から金品を窃取したとされる事件。
昨日(2024年12月16日)は、頭取が記者会見を開き銀行からの公式な説明が行われたところです。
とはいえまだまだ未解明なところも多く、難しい事件だと感じます。
金銭が絡むだけに、財務捜査が登場する場面もありそうです。
事件の難しさ
銀行の貸金庫から顧客が預けていた物品を窃取するという前代未聞の事件。
貸金庫という密室の事件だけに捜査をするのも簡単ではありません。
元行員が行ったことの証明
貸金庫からの窃盗は、前の支店でも行っていたということですから、元行員の犯行であったと思われます。
犯行の手口としては、スペアキーで開けていたという単純なもの。
このスペアキーは、支店内で管理されていたということですが、この鍵にアクセスできる人はほかにもいたはずです。
元行員の犯行であったことをどのように特定するかが気になります。
ただし、貸金庫内には防犯カメラもあったはずです。
その他開閉記録も保存されているかもしれません。
こちらに証拠が残っていれば、立証はできそうです。
盗んだことの証明
貸金庫の中に何が収められていたかは、誰にもわかりません。
知っているのは顧客だけです。
物がなくなっているからといって、盗られたとは限りません。
勘違いということもあるかもしれません。
現金の窃取を立証することはかなり難しいと思います。
特徴ある貴金属類、シリアル番号が刻印されている高級時計など特定できる物を盗み、これを質屋等で換金したなどということがあれば立証はできそうです。
報道によれば、元行員は、調査に応じているとのことです。
物と処分が結びつく確実な事実から窃取を特定することになるかと思います。
財務捜査はどうか
以上の立証は、主に窃盗事件の捜査です。
財務捜査としては、犯罪の動機、使途、資金の流れの解明になるかと思います。
資産の照会
現在のところ、窃取した金品は投資などに流用されたということです。
そのような供述を念頭におきながら、まず、元行員がもっているすべての資産を調べるところから財務捜査は行われるはずです。
投資に金が流れているのであれば、銀行口座、証券口座等をすべて明らかにする必要があります。
今回の被害金額が十数億円といわれている中、相当の口座があったものと思われます。
不動産、自動車等も資産として把握対象となります。
また、照会により判明した銀行等の取引履歴からさらに他の資産が判明することもあります。
投資に使っていたことの裏付け
給料や賞与を超える金額を投資に使っていれば、原資は、盗みにより得た金ということは推察されます。
窃盗を直接立証することにはなりませんが、投資をしていたという供述の裏付けにはなります。
一方、多額入金があったからといって、原資が相続、不動産売却収入ということもあるかもしれません。
そのような可能性も考えて、戸籍、登記簿等も調べたうえで、収入源となりそうな資金をつぶしておく必要はあります。
投資資金の使途
この数年の投資環境をみれば、株式、投資信託、金、外貨ともに価格上昇期にありました。
一般的に考えれば、相当な利益になったはずです。
資金を引き出していた場合、何に使ったのかということは、捜査対象となるはずです。
「投資」ではなく、実際の使途はほかのところにある可能性も考えられます。
また、
- 共犯者の有無
を解明する点からも資金使途の捜査は重要になってきます。
動機
容疑者とされる元銀行員の動機を解明するために、生活実態も調べる必要がでてきます。
直接犯罪を立証するものではありませんが、実態・全容の解明には欠かせません。
収入・支出、資産・負債の推移を過去に遡って調べることになります。
約4年半前から犯行に及んでいたということです。
転機となるその時期に何があったのか。
また、その後の生活がどのように変わっていったのか。
ここは財務捜査によるところがでてきます。
本日のまとめ
実際、この事件はどのように立証していくのか気になるところです。
元財務捜査官の立場から、考えてみました。
この事件では、被害者対応も気になります。
貸金庫から品物を盗まれて被害にあったのは、利用者です。
被害者の供述、被害者からの資料提供は捜査に欠かせません。
物が盗られたという財産上の被害に加え、捜査協力も求められ、被害者には大きな負担になりそうです。