過日の報道によると、会社から資金を引き出し、SNSで知った投資先に1億2,150万円を振り込んだとして、建設会社のパートタイマーが業務上横領の疑いで逮捕されたとのことです。
「投資」をすれば儲かると思ったのでしょうか。
必ず儲かるという話に乗って会社の資金を横領する事例は以前から見られます。
SNSによる投資詐欺が横行している最近では、一層事件が増加することが懸念されます。
事件の概要
複数の報道内容を総合すると、
- 被害にあったのは建設会社
- 容疑者は経理担当のパートタイマー(42歳)
- 2019年7月に入社し今年1月に退社
- 横領の時期は昨年11月9日~12月12日
- 被害額は1億2,150万円
- 会社の預金口座から現金を23回にわたって引き出して横領
- 上司が預金残高が減少していることを発見し、発覚
- 昨年12月中旬、経理責任者が警察に被害を相談
- 銀行の防犯カメラから犯行を特定
- 銀行から引き出した資金は、「SNSで知り合った人に勧められた投資先」に振り込んだことが判明
といった内容のようです。
記事のポイント
SNS投資を信じた
このところSNS型詐欺が急増しています。
架空の投資話やロマンス詐欺の手口で資金を騙し取る手口で、2023年には被害総額が約455億2千万円にも達しています。
投資にしても、ロマンスにしても、そのような話などないということは分かりそうなものですが、実際に信じている方は多くいます。
さて、ロマンスは別にしても、架空の投資話を信じた場合、会社から資金を横領する動機は強くなります。
「必ず儲かる」のであれば、会社から資金を持ち出し、投資し、儲けて返せば法律的にはともかく金銭的には誰も損をしないことになります。
実際この手の動機から不正に手を染めるケースは多くみられます。
一時的に資金を引き出し、儲けて返すという理由で会社資金を横領するということはあります。
生命保険会社の元従業員が170億円を不正送金したのも、暗号資産で儲ける自信があったからで、実際に利益を出しています。
投資をするには、元手が大きい方が有利です。
例えば、2割の利益が出るといっても、元手が1,000円であれば200円の利益にしかなりませんが、1億円の元手があれば2,000万円が利得となります。
そこで会社から資金を「一時借用」するといった動機が生まれることになります。
防犯カメラ画像で確認
ところで、2か月で1億2,000万円もの資金が引き出されていて、会社が気が付かないものなのか。
このパートタイマーは2019年7月入社。
勤続約5年で中堅の役割を担っていたのかもしれませんが、1人で資金を引き出せる環境であったと考えられます。
1億2,150万円を23回にわたり引き出したということは、1回あたり約500万円。
払い戻し請求書で引き出すにしても、ATMを利用するにしても、届出印管理、キャッシュカード管理状況が気になります。
防犯カメラ画像で引出しを特定したとのことなので、おそらく複数の人が預金を引き出せる状態だったのだと思います。
防止策
では、今回の事件を通じて、会社側はどのような防止策を取ることができたのか考えてみます。
動機を防ぐのは難しい
今回は儲け話が強い動機となり、不正に走ったことが推察されます。
会社側でこれを防止するのは、現実問題としてかなり困難です。
内心を知ることは不可能です。
不正が発覚した後に動機がわかることはありますが、通常に勤務をしている段階で動機を知ることはまず無理です。
不正防止の点からは限界があるのが実際です。
基本は機会をなくすこと
今回の事例では、上司が不正に気が付いたということで経理には複数の方がいたようです。
それであれば、
- 預金通帳と届出印の分離
- キャッシュカードの管理
は最低限行われていなければなりません。
引出限度額の設定
本来は、預金通帳を使って銀行窓口で払い戻しをするのが基本です。
しかし、支店の統廃合で場所が遠くなってしまい、やむなくキャッシュカードを利用することもあります。
その場合、1回あたり、1日あたりの引出限度額設定は必須です。
会社の業種にもよりますが、数十万円以上の取引は基本的に振込です。
多額の現金を引き出せないように限度額を設定することで、被害を最小限にとどめることができます。
また、キャッシュカードを渡したら、その日のうちに伝票入力とインターネットバンキングでの預金残高照合は必須です。
この会社では経理処理が自社であったのか、会計事務所に記帳代行を依頼していたのかわかりません。
口座の動きをリアルタイムに把握できるインターネットバンキングを利用した自社会計(自計化)が不正防止の観点からは有効です。
本日のまとめ
冒頭にも書いたようにSNSを利用した投資詐欺が頻発しています。
「必ず儲かる」は詐欺師の常套文句。
また、著名人が開催している投資サークルというのもあり得ない話です。
確実に儲かると思い込み、会社の資金を横領する事件の増加が懸念されます。