先日、高級時計のシェアリングサービスを巡る巨額詐欺事件で、指名手配されていた運営会社の元代表がドバイで逮捕されたとのことです。
高級腕時計シェア「トケマッチ」元代表を逮捕 被害28億円か(日本経済新聞)
本件は当初「業務上横領」の疑いで報じられていましたが、現在は「詐欺」の容疑で捜査が進められているようです。
最初は「業務上横領」だった
今回のシェアリングサービスに関する動きとしては、2024年3月に運営元代表に対し指名手配がされています。
このときの逮捕状は「業務上横領」と報じられています。
高級腕時計シェア「トケマッチ」、運営元代表を指名手配(日本経済新聞)
業務上横領罪は、自分が預り保管している他人の物品を、勝手に自分で費消したり、売却することで成立します。
費消、売却、質入などの行為は、不法領得の意思の発現とも言われます。
業務上横領事件の捜査経験からすると、現金横領は難易度が高いといえます。
現金そのものに個別性がなく、自分が持っていた現金との区別ができないためです。
これに対し、高級時計の場合、一点ごとにシリアル番号が刻印されています。
もし預けられた時計が質屋や金券ショップへ持ち込まれた場合、お店ではシリアル番号を記録します。
本人確認も行えば、防犯カメラもあるはずです。
これらの客観的な証拠により、「預かっていたものを勝手に売却した」という事実の立証は比較的進めやすいと感じます。
逮捕時は「詐欺」だった
今回、指名手配されていた容疑者がドバイで発見され逮捕された報道をみると、容疑は「詐欺」に変わっています。
一つの行為について、詐欺罪と(業務上)横領罪は同時には成立しません。
当初、業務上横領としていた容疑が捜査の結果詐欺罪と判断されたようです。
あるいは、業務上横領とは別の時計について、詐欺罪が認められた可能性もあります。
- 最初から時計を騙し取る目的があれば、詐欺罪
- 時計のシェアリングをしている中で、預かった時計を売却すれば、業務上横領罪
というのが大きな区分です。
おそらく、時計の処分状況、売却資金の使途、運営組織の経営実態などから詐欺となったものと思われます。
財務捜査も
新たな報道によると、この事業は破綻直前には約5億円の赤字を抱えていたとされています。
この状況下でもなお時計の募集を続けていたことが、詐欺罪の立証において極めて重要な判断となったはずです。
一般的に支払不能状態での募集活動は詐欺の立証につながります。
もはやレンタル料(預け主への配当)を支払える見込みがないにもかかわらず、新たな時計を募っているのであれば、「お金を払う意思も能力もないのに物品を募った」ことになるためです。
ここで必要になるのが「財務捜査」です。
以下の2点が客観的な事実として求められます。
- 客観的数値: 資産と負債を比較し、大幅な債務超過であり、返済の見込みがなかったこと。
- 主観的認識: 運営者が「もはや返済は不可能である」という事実を認識していたこと。
数字で事実を示し、認識を他の証拠と合わせることが重要です。
また、集めた資金を何に使ったのか(私的流用や別事業への補填など)は、詐欺の動機を解明するのに不可欠です。
集めた資金の使途が、詐欺の動機となります。
本日のまとめ
ある犯罪コメンテーターも「この事件は財務捜査が必要不可欠だ」と指摘していましたが、まさにそのとおりだと思います。
この種の詐欺事件の場合、破綻時期の特定と容疑者の認識は欠かすことができません。
実際の捜査も、その点を中心に進められているのではないかと思っているところです。


