消費者被害と詐欺事件

2024年12月10日に破産手続開始の申し立てをした「アリシアクリニック」。
運営母体は、医療法人社団美実会と一般社団法人八桜会という2法人になります。

債権者数は9万人超と、過去最大級の消費者被害と言われています。
ネットには、詐欺を疑う書き込みもされているようです。

多数の被害者が問題となる投資詐欺事件の多くは最初から騙す目的で設立されていることがほとんどで、詐欺に問われることが一般的です。
これに対し、事業運営の失敗による倒産の場合、結果的に返金ができなくなってはいますが、詐欺事件として立件されないこともあります。

時系列と事実の整理

「アリシアクリニック」について、現時点、マスコミ報道されている法人概要、時系列は次のようになっています。

(参照元)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e35748eb2f0283f404a6892e54e31e24e56242a8
https://news.yahoo.co.jp/articles/00a136b3af94a76b528562650e0728202a9f8503

法人概要

法人

  • 医療法人社団美実会(登記上本社 さいたま市大宮区)
    資産総額 44億4,447万2,288円
    負債額  約72億9546万円(債権者5万7498名)
  • 一般社団法人八桜会(登記上本社 東京都豊島区)
    負債額  約51億7587万円(債権者約3万4320名)

2法人合計
 店舗数 約40店
 従業員数 1,500名
 負債額 約124億7133万円(債権者約9万1818名)

時系列

2010年1月医療法人社団美実会創業
2010年9月法人に改組し、その後「アリシアクリニック」を全国で運営
2021年4月期   売上高163億1,500万円を計上
2021年7月一般社団法人八桜会設立。「じぶんクリニック」を運営
2023年11月頃「銀座カラー」を運営していた(株)エム・シーネットワークスジャパングループから離脱
2023年12月(株)エム・シーネットワークスジャパンが破産手続き開始決定
この影響を受け一時経営悪化
2024年7月八桜会、「じぶんクリニック」→「アリシアクリニック」へ施設名変更
2024年10月「銀座カラー」の人材採用窓口となっていた(株)ファーストコンサルティングが破産手続き開始決定
2024年12月4日「システム障害による無料カウンセリングの受付の一時停止について」を発表
社会保険料の差押予告
2024年12月10日東京地裁へ自己破産を申請し、同日破産手続き開始決定。営業停止。

過去の消費者被害事件の検挙例

過去に発生した消費者被害の倒産事件のうちには、経営者が検挙されている事件もあります。

なお、最初に書いたとおり、投資詐欺については設立当初から詐欺目的であることが多く、ここには含めていません。

詐欺事件

倒産すると分かっていて、顧客から手付金等の名目で資金を騙し取ったとして詐欺で検挙された事件としては、

  • アーバンエステート(住宅販売)
  • アポロホーム(住宅販売)

があります。

資金を受け入れても住宅を引き渡せないことがわかっていたということが、詐欺にあたるとされています。
住宅は金額が大きく、個別に注文を受けて引き渡すことになります。
手付金を受けても住宅が引き渡せないことがわかっていた、という関連性が強くなります。

一方、顧客でなくて銀行に対する融資詐欺で立件した事例もあります。
粉飾した決算書を提示して融資金名目で銀行から資金を騙し取ったとして、

  • はれのひ(振袖販売・レンタル)
  • てるみくらぶ(旅行会社)

の経営者が逮捕されています。

業務上横領

英会話学校のNOVAの社長は、互助会組織の銀行口座にあった資金を自分が実質支配していた口座に無断で移したとして業務上横領で逮捕されています。

詐欺破産

消費者被害の事件での該当例は見当たりませんでしたが、倒産に関連し、詐欺破産罪での検挙もよく見られます。

典型的には、破産開始決定の前に、会社の財産を隠してしまうという事例です。
破産手続きが開始されると会社財産は、破産管財人の管理下におかれます。
そのため、破綻直前に架空取引等で財産を隠匿するということになります。

参考図書

「不正の端緒を見抜く 財務捜査の進め方」横山誠(ブログ運営者)著 中央経済社刊
https://amzn.to/4gb8YFv

本日のまとめ

今回の破産会社が詐欺罪に問われるのかは、現時点わかりません。
同種の倒産がすべて犯罪に該当するわけでもありません。

先ほど詐欺事件の検挙事例として紹介したアーバンエステートと同時期には、静岡県の富士ハウスも倒産しています。
アーバンエステートよりも負債総額が大きく被害者も多かったと思われますが、詐欺等で検挙はされていません。

また、「銀座カラー」を運営していたム・シーネットワークスジャパンについても、現時点、検挙されたという話は伝わってきません。

疑いがあれば警察が捜査を進めることになります。
その場合には、財務捜査の出番です。