先週末に吉永啓一郎弁護士が書かれた「Q&A税理士事務所の法務全書」を読んでいました。
豊富な内容が盛りだくさんで、必要な箇所だけの読書です。
この本に「警察等の捜査機関からの資料等の提供の要求と対応」という一節があります。
法的な内容は同書によるとして、財務捜査官時代の経験を思い出したところです。
なお、以下の説明は経験や意見を交えた内容となっています。
法的な正確性や確実性を保障するものではありません。
警察が資料提供を求める場合
警察が税理士に対し、顧客の税務申告書、総勘定元帳などの書類提供を求めることがあります。
根拠条文は、刑事訴訟法第197条第2項です。
条文には「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」と記されています。
捜査上必要がある場合、捜査機関が公私の団体に回答を求めるものです。
実務としては、警察署長、本部の事件担当課長名で「捜査関係事項照会書」という公文書が発出され、回答を求めることになります。
この照会に対し、回答をしないことについての罰則規定はありません。
しかし、官公庁が法律に基づいて照会している事項に対し何らの回答をしないということは、想定されていません。
税理士は公的な資格である一方、守秘義務も課せられています。
このバランスが難しいところです。
顧客の了解がとれないか
警察からの文書提出依頼について、絶対的な対応方法は存在しないと思います。
まず、事件について、すでにマスコミ報道がされている事件もあれば、警察が秘匿で捜査中の事件もあります。
マスコミ報道がされていて、かつ、税務申告書や会計帳簿が重要な事件であれば事件解決に必要といえるかもしれません。
ただし、守秘義務の問題は残ります。
一方、まだ捜査中の段階では、警察も捜査状況を教えてくれないので、必要性の判断ができません。
このような場合、まず、顧問先から提供を受けられないか警察に打診してもいいかもしれません。
顧問先に会計帳簿類の保存があれば、顧問先から提供をしてもらえばいい話です。
顧問先に保存がない場合には、いったん顧客に書類を返却し顧客から提出をしてもらうか、顧客の承諾を得て税理士から警察に提供するというのも選択肢です。
顧客の了解がとれない場合
顧客が提供を拒否している場合、あるいは、捜査中であり顧客に照会をするのを控えるよう要請があった場合は、税理士判断になります。
税理士は公的な立場である一方、守秘義務も負っています。
このような場合は、裁判所に判断を仰ぐというのも一つの方法に思います。
警察は行政機関です。
その業務を司法機関である裁判所に判断をしてもらうのが均衡がとれるはずです。
具体的には、裁判所の差押令状を発付してもらいます。
警察が「差押の必要性」を裁判所に疎明し、裁判所が差押が必要であると認めれば差押令状が発行されます。
税理士には押収拒絶権がないとするのが通説とされています。
裁判所が書類を差し押える必要性を認めたのであれば、これに対して従うことになります。
「捜索」は付くのか
差押令状は通常「捜索差押許可状」として発付されます。
通常、場所を探し、証拠を発見し、差押えるというのが一連の流れになることが多いので、そのような様式になっています。
一方、捜索だけ、差押だけといった令状の発付もあります。
「捜索」がつくと、税理士事務所が捜索の対象となります。
いわゆるガサです。
書類を探すのが目的なので、多数の捜査員が税理士事務所に来ることは考えにくいところです。
ただ、制度上は、必要な範囲で体制を組んで臨むことも可能です。
捜索中は、事務所業務にも影響が避けられません。
捜索のない「差押令状」となるよう、調整を図るのが実務的な対応と思います。
本日のまとめ
税理士が警察から資料提供を求められる機会は、そう多くはないと思います。
ただ、警察からこのような要請がきた場合、対応が難しいことは容易に想像できます。
稀な事例ですが、参考として記させてもらいました。

