侮辱罪の法定刑が引き上げられてから3年が経過しました。
これを受けて、2025年9月12日に法務省で「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会」の第1回会議が開催されています。
厳罰化後の侮辱罪の適用について、新たな「侮辱罪の事例集」が参考になります。
「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会」
2022(令和4)年7月に侮辱罪の法定刑が引き上げられ、3年が経過しました。

法改正時の附則で、3年を経過したときは外部有識者を交えて検証を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずることとされています。
これを受け、「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会」が開催されたものです。
参考
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00215.html
どのような言動が侮辱罪に該当するのか
「侮辱」とは、具体的な事実を示さずに、人の名誉を低下させる行為をいいます。
具体的な事実を示せば「名誉棄損」に、そうでなければ「侮辱」に該当するというのが大きなくくりです。
侮辱罪については、刑法231条に「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」とあります。
「バカ」「クズ」といった発言や、身体的特徴を揶揄する言動は侮辱に当たるとされています。
しかし、実際に侮辱罪で訴えようとしても、どの程度の発言なら侮辱に問えるのか判断が付きにくいところでもあります。
「バカ」などは普段でも耳にする言葉です。
また、ネットでは侮辱的な書き込みを見ることも多く、この程度で告訴できるのかと不安になるところです。
侮辱罪は親告罪であり、相手の処罰を求めるには「告訴状」を作成し、警察に提出する必要があります。
告訴状を作成するのも労力がかかりますし、場合によっては弁護士、行政書士に頼まなくてはなりません。
また、警察に提出に行くのも気が重いことです。
事例集を確認すると、どの程度であれば、侮辱罪に問えるのかの判断材料になります。
厳罰化後の事例集
侮辱罪の事例集は、過去にも、厳罰化の検討資料として作成されています。
https://www.moj.go.jp/content/001356049.pdf
今回、新たに事例集が加わったことになります。
https://www.moj.go.jp/content/001446563.pdf
この2つの事例を確認すれば、どの程度の行為が侮辱罪に該当するのかが見えてきます。
新たな事例集から一部を抜粋します。
事案の概要 | 処理区分 | 裁判結果 |
① 被害者方付近の路上において、被害者に対し、「大馬鹿。」「あほー。」などと放言した。 ② 同所において、同人に対し、「ごろつき。」「馬鹿。」などと放言した。 ③ 同所において、同人に対し、「大馬鹿。」「恥知らず。」などと放言した。 | 略式命令請求 | 科料各9,900円 |
駐車場において、被害者に対し、「馬鹿」と言った。 | 略式命令請求 | 科料9,900円 |
インターネット上の掲示板の「●●(被害者勤務先名)」と題するスレッドに、「●●(被害者の名字)さん、髪を緑に染めて気持ち悪いですよ 頭大丈夫ですか?」と掲載した。 | 略式命令請求 | 罰金50,000円 |
インターネット上の掲示板の「●●(被害者使用アカウント名)⑦」と題するスレッドに、「フランケン化け物」と投稿して掲載した。 | 略式命令請求 | 罰金100,000円 |
SNSに、「●●(被害者勤務先名)会社の社長●●(被害者の名字の誤字)全てやりっぱなしひでーし社長だわい違法行為ばっかりすべての証拠もありまし#●●(被害者勤務先名)#●●(被害者の名字)社長」と投稿した。 | 略式命令請求 | 罰金300,000円 |
新たな事例集は、計173の事案について掲載がされています。
これをみると、「馬鹿」という発言は侮辱罪に該当する可能性があるということがわかります。
もちろん、事例集は概要であり詳細まではわかりません。
それでも、判断材料にはなります。
本日のまとめ
新たな事例集で、「侮辱」の内容と裁判結果がより明確になりました。
厳罰化前には、法定刑の制約から科料9,900円が上限でした。
これが厳罰化後は、罰金30万円という事例も見られるようになりました。
一方、現時点では拘禁刑の適用はまだ見られないようです。
なお、侮辱罪は告訴が必要な親告罪です。
告訴期間は、犯人を知った日から6か月以内と短くなっています。
新たな事例集を確認しつつ、早めの対応をお勧めします。