「リア王」にみる生前贈与の失敗

相続対策の一つとして生前贈与があります。
相続税は、相続時に保有している財産に対して課税されるため、生前贈与により遺産を少なくすることは確かに効果的といえます。

しかし、生前贈与の結果、自分の財産が少なくなり過ぎる弊害もあります。

シェイクスピアの「リア王」は相続税対策ではありませんでしたが、生前贈与の失敗とみることができます。

今回読んだのは、リア王 (光文社古典新訳文庫) 安西徹雄 訳
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「リア王」のあらすじ

「リア王」のストーリーについては、改めて説明するまでもないかもしれません。

80歳を越えたブリテン王のリアは、肩の荷をおろし余生を過ごそうと、三人の娘たちに領土を分割し老後の面倒を見てもらおうとします。
そこで、娘たちの愛情を確かめるため、三人を集め父である自分に対する愛情を話させます。

長女、二女は、言葉巧みに父への愛情を話すものの、未婚の三女はうまく言葉にすることができません。
結婚を控え、将来の夫への愛情や務めも果たすことになります。
父親に対しすべての愛情を捧げることはできないといいます。

これが王の逆鱗に触れ、三女は領土の分割は得らません。
王は長女、二女に頼ることになります。

ところが、退位した王が長女、二女を訪問しても、王としての権力を手放したリア王に対し拒絶の態度を取られてしまいます。
さらに、百人いる家来も多すぎる、一人で十分とまで言われる始末です。

二人の娘に裏切られたリア王は、荒野をさまよい、気も違ってきて…

というストーリーです。

リア王の失敗

リア王は、相続税対策で生前贈与をしたわけではありません。
その目的は、老後を娘に頼るためです。

その1 言葉を信じてしまった

リア王の悲劇の直接の原因は、娘たちの言葉を信じてしまったことにあります。
長女、二女の甘言も、また、三女の真意を読み取ることができませんでした。

もちろん、三女のコーディーリアにも問題があります。
リア王の性質を見抜き、嘘でない範囲で、父親への愛情を表現することもできたはずです。

リア王が、行動ではなく言葉で財産を分けたというのが、そもそもの失敗です。

総じて、家族間の対話が不足していたように感じます。
時間をかけ親子間で話をしながら進めればよかったのに、一堂に会したその場で即決してしまっています。

その2 財産のすべてを渡してしまった

次の失敗としては、リア王が、すべての財産を長女と二女に渡してしまったこと。
これでは、生活を2人に委ねることになってしまいます。

もちろん、計算高い2人であったことが悲劇の原因ではありますが、仮にそうでなかったとしても、子にすべてを渡すことは慎重であってもいいかもしれません。

すべてを渡した場合、財産を持った子が冷淡になるかもしれません。
子が結婚している場合、配偶者や、その子(孫)の影響を受ける可能性もあります。

現在では、体力、認知機能が低下した場合、介護施設への入居が検討されます。
その場合、多額の費用を必要とする介護方針の決定をご自身で行うことができなくなります。

その3 周囲のアドバイスを聞かなかった

リア王は、権力の譲渡を一気に行って失敗しています。
王という権力に絶対の自信をもっており、退役後も周囲は自分の言うことに従うものと思っていました。
財産の分割、権力の移譲については、慎重に行うものです。

三女に領土を渡さず、親子の縁を切ると言ったとき、忠臣のケントが思い直すよう懸命な説得を行ってもリア王は聞く耳を持ちませんでした。
重要な財産の処分については、周囲のアドバイスを聞いてみる必要もあったように思います。

本日のまとめ

「リア王」を生前贈与という観点から見てみました。

生前贈与については、相続対策という視点で提案されることが多いのですが、

  • 生前贈与する財産の額
  • 手元に残しておくべき財産の種類と金額
  • 相続税の負担
  • 家族の状況
  • 健康状態

など、考慮すべき点が多数あります。

生前贈与については、周囲の意見も参考にしながら、慎重に進める必要があるように感じます。