古い話になります。
2006年の9月にFBI研修に行かせてもらいました。
そこで印象に残ったWooden Nickel作戦の潜入捜査員の話。
FBI研修
2006年の9月にFBI研修に参加することがありました。
ただし期間は1週間程度。
往復の移動時間を考えると、わずかな日数でしかありません。
期間は短かったものの、中身は濃厚。
その中で知った内容の一端です。
なお、ブログ記事の内容は、FBIのホームページ、その他報道によって公表されています。
主な内容は、
- FBI
https://archives.fbi.gov/archives/news/pressrel/press-releases/statement-by-assistant-director-in-charge-pat-damuro-federal-bureau-of-investigation-for-the-press-conference-concerning-the-arrests-made-in-connection-with-operation-wooden-nickel
https://archives.fbi.gov/archives/news/pressrel/press-releases/fact-sheet-commodities-fraud-and-manipulation - ワシントンポスト
https://www.washingtonpost.com/politics/2023/01/13/fbi-undercover-operatives-training-safety-watchdog
にあります。
公表されているとはいえ研修に参加していなければ、おそらく自分から調べることはなかった話です。
潜入捜査官の存在
FBI研修では、いくつかの経済犯罪の検挙事例を聞く機会がありました。
内容的には、エンロン事件、ワールドコム事件について。
FBIに研修に行った2006年は、日本ではライブドア事件が起きています。
そのような証券市場を舞台とした事件ではありませんが、外国為替取引の不正事件として紹介されたのが、Wooden Nickel Operation。
Wooden Nickelとは、木製のニッケルコインのこと。
つまり、まがい物ということのようです。
FBIやアメリカ軍では、特別なミッションについてネーミングを行うのが慣例のようです。
東日本大震災のときには、「Tomodachi Operation」が展開されています。
Wooden Nickel作戦は、ジョージ・W・ブッシュ大統領が設立した企業詐欺タスクフォースの一環。
大規模な為替操作詐欺に対する捜査です。
この事件では56人が有罪となり、罰金と賠償金を合わせて1億ドル以上が課される成果を上げています。
これ自体、かなり大きな詐欺事件であることは分かります。
この事件検挙に大きく貢献したのは潜入捜査官。
1年半にわたり外国為替トレーダーとして詐欺集団の中で組織の一員に溶け込み、組織中での情報をFBIに伝える任務を果たしました。
組織内で秘密裏に行われる犯罪を検挙するには、その組織に入り込み情報を入手するのが効果的です。
「絶対に捕まらない」と豪語していた犯人グループも、一緒に勤務しているのがFBI捜査官だったとはまったく気がつかなかったようです。
実際の場面
潜入捜査官は、効果的で格好いいのですが実際の運用を考えると簡単ではありません。
- どのように組織に入り込むか
今回の犯罪の舞台となったのは、外国為替を専門会社です。
ただ、いきなり採用試験を受けて受かるものではありません。
当然に即戦力採用。
外国為替に関する専門知識、経歴は必須となります。
- 本人確認書類の提出
無事、採用試験に合格した場合、本人確認書類などの提出を求められます。
そのときに、本物を出すわけにはいきません。
そこで、偽造した本人確認書類を提出することになります。
この偽造書類も組織としてFBIが準備します。
このような偽装工作はBackstoppingと呼ばれます。
- 作戦終了後のサポート
潜入捜査官に対する心理的なプレッシャーは相当なものだと思います。
FBI捜査官の身分が発覚する可能性がありますし、FBIへの報告もしなくてはなりません。
仮にバレた場合、身の安全が保障されるとは限りません。
さらに大きな問題は、任務終了後になります。
一市民として再び生活できるよう、保護活動、心理的サポートも必要になってきます。
この点についても、FBIは組織的にバックアップ、サポート体制を構築しているとのことです。
以上の内容は、先ほどのサイトにも記載があります。
日本ではどうか
日本でも同様のことが可能かどうか。
おそらく難しいと思います。
偽造の免許証、マイナンバーカードなどの本人確認書類を作成することができません。
ここは法律上の縛りがあるため、不可能です。
また、
- 潜入活動中に随時報告を受ける体制づくり
- 潜入捜査が発覚したときの対応
- 活動終了後の身体保護、心理的サポート
なども具体的に必要になってきます。
もしかしたらどこかで検討されているのかもしれませんが、私の知る範囲ではありません。
本日のまとめ
アメリカでは潜入捜査を進めているのは、法律が整備されていることに加え、経済事件捜査に対する力の入れ方もあるように感じます。
FBIの捜査幹部の話として、
- 経済事件捜査する目的は、健全な資本主義経済を維持すること
と強く話があったのが印象的です。
確かに、不公正な取引が放置されれば不正をした人が利得を得ることになります。
これでは、まじめに活動している人が不利となってしまう結果となります。
それでは資本主義経済が成り立ちません。
もちろん日本でもそのような観点から捜査はしています。
ただ、その口調からは、より強い決意が感じられました。
なお、今回の記事と関連したWikipediaも参考になります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BA%AB%E5%88%86%E7%A7%98%E5%8C%BF%E6%8D%9C%E6%9F%BB