典型的な贈収賄事件は、密室完全犯罪ともいえます。
通常、賄賂は現金です。
証拠が残りません。
また、その場には、渡す人と渡される人の2人しかいません。
目撃者が存在しません。
このような、いわば密室状態の犯罪を立証するのが贈収賄事件の財務捜査となります。
賄賂と現金
贈収賄事件は、公務員に対し不正の働きかけをして、その見返りとして金品を渡すことで成立します。
金品は人の欲求を満たすものであれば、内容を問いません。
パソコン、ブランド品であってもいいですし、無形の接待であっても構いません。
ただ、圧倒的に多いのが現金です。
小さくてかさ張らず、物を買うことも、財産として持つこともできます。
昔から賄賂は現金が相場です。
通常の取引でも現金取引はもちろんあります。
その場合、領収書を交付するなど授受の証拠を作ることになります。
また、現金もその場で数え、受け渡しに間違いがないことを確認します。
領収書の発行がされない賄賂は、授受の証拠が残りません。
賄賂解明の突破口
裁判は証拠に基づいて行われるため、現金取引の場合、贈収賄事件は立証できないことになります。
しかし、現実には、現金取引であっても、贈収賄事件は検挙されています。
いくつかの突破口があります。
相手の存在
贈収賄は、賄賂を渡す側、受け取る側の2人がいます。
対立する複数の人が絡むため、「対向犯」とよばれることもあります。
贈収賄事件で単独犯はありません。
必ず相手が存在します。
そこで、渡した側の渡した記録と、受け取った側の記録の一致をもって、資金授受の立証を行うことが可能です。
渡す側の存在
まず、渡す側は民間事業者です。
会社には帳簿があり、取引記録は会計帳簿に記載されています。
裏帳簿だとしても、そこに記録が残ります。
会計帳簿を綿密に調べ、不審な取引をピックアップすることで賄賂の可能性を見つけることは可能です。
受け取る側の存在
一方、受け取る側は公務員です。
公務員の側は帳簿を付けているわけではありません。
家計簿をつけていたとしても、賄賂をもらったと書くわけはありません。
ところで、賄賂を受け取る公務員の経済状況を考えれば、何らかの理由でお金が必要だということは推測できます。
お金に余裕のある公務員が、失職のリスクを冒してまで賄賂を受け取るわけはありません。
ギャンブル、異性などへの支出、あるいはこれらの理由で膨らんだ借金の返済でお金が必要となっています。
賄賂を受け取ったと思われる時期に、個人の資金をち密に調べれば使い道が明らかになることがあります。
両者の一致
結局賄賂の授受については、
- 渡した側の帳簿を確認し不明点を見つける。
- 受け取った側の経済状況を確認し資金の流れを調べる。
- その結果、両者が一致すれば資金の授受が明らかになる。
という流れで立証するというのが基本となります。
本日のまとめ
本日の記事は、多くの裁判記録で明らかにされている内容です。
私も過去の判決文や贈収賄事件に関する資料を調べ、この方法にたどり着きました。
実際の捜査では、すっきりと解明できる事案ばかりではありません。
基本形を踏まえ、応用をきかせることになります。