2024年6月25日にブックオフグループホールディングス株式会社から「特別調査委員会の設置及び 2024年5月期決算発表の延期に関するお知らせ」と題するIRが公表されています。
文中には、
特別調査委員会の設置並びに2024年7月16日に予定しておりました2024年5月期の決算発表を延期することを決議いたしました
当社子会社が運営する複数店舗において、従業員による架空買い取り、在庫の不適切な計上及びこれらによる現金の不正取得の可能性があることが発覚いたしました。
とありますが、どのようなことが想定されるのか。
考えてみます。
IRから分かること
子会社が運営する店舗の不正
今回IRを発出したブックオフグループホールディングスは、不適切会計があったのは「当社子会社が運営する複数店舗」としています。
同社は複数の子会社を有していますが、特別調査委員会を設置し決算発表を延期するほどの規模なので、主力事業である国内ブックオフに関する子会社の可能性が高いと考えられます。
複数店舗で発生
今回は、従業員による不正です。
従業員による不正は一人で行われることがほとんどです。
通常、不正をするのに他人の協力を必要としませんし、何人もが不正に関与すると仲間内からバレてしまうリスクがあります。
今回は複数店舗で生じているということなので、不正の共有があったように思います。
従業員による不正
従業員は会社の指示命令に服し、就業規則等の諸規程を遵守する義務を負っています。
本来、会社がルールを定め、しっかりチェックしていれば防止できた事案ではないかと感じます。
もっとも今回不正が発覚したわけですから、チェックはできていたのかもしれません。
不正内容
IRには
- 従業員による架空買い取り
- 在庫の不適切な計上
とあり、さらに、
- これらによる現金の不正取得
とあります。
「従業員による架空買い取り、在庫の不適切な計上」は別々のことか、1連の動きなのか。
どちらとも読めます。
在庫の不適切な計上だけで現金を不正取得することは難しいので、相互に関連しているように感じます。
架空買い取り
1点目の「従業員による架空買い取り」についてです。
架空買い取りで現金を不正取得したということは、レジから現金を着服したのだろうと思います。
ブックオフの買取は、ほとんど現金で行われています(一部キャッシュレス買取もあります)。
不正の1つ目として考えられるのは、実際には100円で買い取った本を300円で買い取ったことにして差額200円を着服する方法です。
客側がレシートを求めなければ100円を渡し、後で買い取り金額300円とレジ入力することが可能です。
2つ目として考えられるのは、店内にすでにある在庫商品を利用する方法です。
棚から取り出して新たに買い取ったことにすれば、レジから現金を着服できてしまいます。
ただ、商品の買い取りには、本人確認書類が必要なので現実には難しいかもしれません。
新刊書書店であれば、出版社(ほとんどの場合は取次店)から本を仕入れるため、書店の仕入高と出版社の売上高が一致します。
架空仕入をしても、取引を突合することでバレてしまいます。
また、仕入代金の支払も銀行振込で行うため証拠が残ります。
一方、中古書店のように個人からの買い取りであれば、数量も金額も照合することが困難です。
現金支払なので、現金の受渡しを客観的に示すこともなかなかできません。
「従業員による架空買い取り」とは、このようなことを言っているのでしょうか。
在庫の不適切な計上
2点目の「在庫の不適切な計上」についてです。
先ほど書いたような、実際には100円の中古本を300円で買い取ったことにすると、仕入値が高くなり利益が下がってしまいます。
また、すでにある店内の在庫商品を新たに買い取ったことにすると、商品管理をしているでは本来1冊しかない商品が2冊あることになってしまいます。
利益率が低下したり在庫数量が合わなければ不正が疑われ、あまりいい方法ではありません。
しかし、買取金額の不正については、期末商品棚卸高を水増しすれば利益を確保することが可能です。
中古本の期末棚卸をどのように行っているのか興味があるところです。
ブックオフグループホールディングス株式会社の有価証券報告書によると、中古本の評価方法は「総平均法による原価法」とあります。
あれだけ冊数があって仕入単価もバラバラなら総平均法によって評価するしかないのだと思います。
在庫を不適切に計上した場合、会計上の利益を確保することはできてもIRにあったような「現金の不正取得」はできません。
架空買い取りとセットの不正のように感じます。
ただ、通常、架空買い取りをした人と、在庫管理をする人は別々です。
ここはよく分からない点です。
2007年の不適切会計との対比
ブックオフの不適切会計を聞いて「またブックオフか」と思いました。
ブックオフは2007年にも不適切会計を行っています。
当時の報道によると、
- 在庫の中古本を取引先に転売し、これを子会社で買い戻す方法で2,270万円の水増し売上
- 当時の会長が実質経営していた会社が、取引先から多額リベートを受領
とあります。
当時の不適切会計は経営者によるもの。
そのため子会社、取引先を巻き込んでいます。
今回は、従業員によるもの。
子会社や取引先を使うことは難しいでしょうから、比較的単純な方法かもしれません。
本日のまとめ
今回のブックオフグループホールディングスの不適切会計。
IR資料から想定される手口を考えてみました。
実際の方法は、調査内容の公表で確認してみたいと思います。
不正に関与した従業員は社内処分のほか民事上の責任追及を受ける可能性があります。
場合によっては刑事事件となることもあります。
不正で一時的な資金を得ても、大きな代償を払うことになってしまいます。