不正防止でよく言われる「不正のトライアングル」。
「なるほど」と感じる反面、「うーん、そうかな」と思うこともあります。
不正のトライアングルとは
不正のトライアングルとは、アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが提唱した不正が発生する3要件をいいます。
- 不正を行う「動機」
- 不正が行える「機会」
- 不正に対する「正当化」
この3要素が重なると、不正が発生するという理論です。
これを三角形で示すと、不正のトライアングルです。
不正のトライアングルは、不正防止の基本として広く知られています。
なぜ違和感を感じるのか
不正のトライアングルは、とても納得のいく説明でもあります。
確かに不正の要素を分解すると
- お金が欲しいという「動機」
- 不正ができるという「機会」
- 自分の行為を悪くないとする「正当化」
に分けることができます。
ただ、不正のトライアングルについて、若干違和感を覚えるときがあります。
その1 「動機」
一つ目の違和感は「動機」です。
不正をする動機をひと言でいえば「お金が欲しかった」に尽きます。
犯行に至る経緯を調べれば、
- 遊ぶ金が欲しかった
- ギャンブルにのめり込んでしまった
- 住宅ローンが苦しかった
- いい生活がしたかった
などさまざまな理由はありますが、要するにお金が欲しかったわけです。
ところで、お金が欲しいという気持ちは、誰にでも存在します。
程度の差はありますが。
食費にも困るほどというのであれば、分かりやすい動機かもしれません。
しかし不正をする従業員は、普通に給料をもらっています。
少し贅沢をしたいという理由から横領することもあります。
切実に欲しいというレベルから、もっと欲しいというレベルまでさまざまです。
誰でも欲しいお金について動機をなくすというのは、かなり難しいことです。
また、外部から知ることもできません。
また、動機は、機会から誘引されることもあります。
不正ができるという機会があれば、動機が弱くても不正は発生します。
例えば、特にお金に困っていなくても
- お釣りを多く渡された
- 道路にお金が落ちていた
- 自動販売機に取り忘れの釣り銭が残っていた
というときに、そのままポケットに入れる人がいることは想像できることです。
2008年には、皇宮警察の巡査部長が銀行のATMで他の客が取り忘れた現金約2万円を盗んだ疑いで書類送検されています。
同様に2012年にも高知県の中学校教頭が他人が取り忘れたATMの15万円を盗んだとして、逮捕されています。
想像ですが、この巡査部長も、教頭も、取り忘れたお金を見るまで不正をしようとは思っていなかったはずです。
程度の差はありますが、多くの人にお金が欲しいと気持ちは存在します。
つまり、不正のトライアングルの1つである動機は、誰にでもあることになります。
その2 「正当化」
正当化というのは、要するに自分は悪くないということです。
- 誰でもやっている
- 残業代を払ってもらえていないので穴埋めをした
- 社内で自分の評価が適切に行われていない
というようなものです。
確かにこのような正当化は、不正の要因かもしれません。
ただ、正当化は、要するに言い訳です。
不正が見つかったときには、誰でも罪を軽くしようと保身に走ります。
不正が発覚しても、
- 不正の手口の一部しか言わない
- 不正の金額を少なく言う
ということはよくあることです。
自分の不正を攻撃されれば、言い訳をします。
つまり、正当化というのは、不正が起こる前に生じていたのか、不正が起こってから言い訳をしているのかの区別が付きにくいと言うことです。
また、動機と同様に正当化は心の問題で、外から見えないため対策を立てるのにも限度があります。
正当化が不正の原因であったとしても、これをなくすことは困難です。
違和感がないのは「機会」
不正のトライアングルで、納得できるのは「機会」です。
機会がなければ、不正は発生しません。
従業員による横領であれば、
- ひとりの人に権限が集中している
- 印鑑、キャッシュカードの管理がずさん
- チェック体制が機能していない
という、不正を起こす機会が見つかります。
逆に、この機会がなければ、不正は発生しません。
- 権限を分散する
- 重要物品の管理を適正に行う
- チェック体制をしっかりする
という対策が行われていれば、いくら動機や正当化があっても、不正を実行することはできません。
でもトライアングルは有効と感じる
不正のトライアングル説に異議を申し立てているわけではありません。
ちょっと感じる違和感という程度です。
不正のトライアングルは、どちらかというと、不正が発覚したときの原因を
- 動機
- 機会
- 正当化
に分けて分析すると整理しやすいというメリットがあると感じます。
また、動機も正当化もなくすことはできなくても、少なくすることは可能です。
従業員の給料が十分に高ければ、不正をする動機は低くなります。
また、従業員に対する処遇が適正であれば、不正の正当化をする人も少なくなるはずです。
一方、機会をなくそうと、管理、監視を厳しくすれば、事務手続きが複雑になったり、ギスギスした職場になってしまうかもしれません。
これらバランスを考える上で、不正のトライアングルは重要かと思います。