財務捜査官はどこまで「出世」できるのか

警察は、階級による縦社会。

警察官の一員である財務捜査官も、階級とは無縁ではありません。
果たして財務捜査官はどこまで出世できるのでしょうか。

警察官昇任の仕組み

警察官の階級は、「巡査」からはじまり「警視総監」に至るまで9つがあります。
これに階級的な「巡査長」も加えると全部で10になります。

都道府県採用の一般的な警察官の場合、スタートは巡査。
その後昇任試験、選考などを経て徐々に上位の階級に昇任する仕組みとなっています。

財務捜査官は民間勤務を経験した中途採用者なので、スタートは巡査部長、警部補、警部だったりします。
どの階級からはじまるかは、採用する都道府県警察によって異なります。

私の場合には、警部補採用。

大卒の場合、巡査から巡査部長まで最低2年、巡査部長から警部補までも最低2年ですから、一番若い警部補は28歳。

採用時年齢が35歳だったので、警部補としての年齢は若い方だったと思います。

専門職は昇任できるのか

最近では民間からサイバー捜査分析官の方を警視正として採用したことが、ニュースになっていました。

警察庁、捜査幹部に民間登用 サイバーの脅威が崩す壁 - 日本経済新聞
民間の一線で活躍する人材を受け入れ、対処能力の強化につなげたい。だが担う責務は捜査や治安の維持といった特殊・特異な分野にわたる。こうした事情からあまり進んでいなかった民間との人事交流に、警察庁が踏み込んだ。サイバー警察局のサイバー捜査分析官に10月、警備大手セコムの技術者、浜石佳孝氏(43)が2年の任期付きで登用された...

一方で、話題になるということは、レアケースということでもあります。

役人学三則

一般的に公務員は、専門知識を有するよりも業務を広く経験している方が有利です。
昭和6年に書かれた「役人学三則」では、役人の心得三箇条をあげています。

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第一条 およそ役人たらんとする者は、万事につきなるべく広くかつ浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。

を第一条とし、専門家を目指すなとしています。
続けて、

君ら若い方々はとかく理想にとらわれて一生をある種の事柄にささげたい、それには役人として自分の好むある種の事柄に力を集中してその道の専門的達人になりたい、というふうに考えがちであるが、君がもしも役人として出世を希望するのであるとすれば、かくのごとき態度は根本的に間違っている。現在の官制および官吏任用の実際は、ある種の行政事務に特別の興味を有し、したがって特殊の知識技能を有する役人が一生をその事務にささげつつ適当に出世しうるようにできていない。

と書き、専門分野に特化した公務員は出世することができない制度になっていると説明しています。

昭和と令和とでは時代も違いますが、官僚制度の根本は昔も今も大きな変わりはないのかもしれません。

昇任が難しい理由

専門知識を有する人の昇任が難しいのには、いくつか理由があるかと思います。

まず、専門性により特別採用した人に対しては、他の部署に異動させることが簡単ではありません。

例えば、財務捜査官として採用した人を交通部に異動させることは無理な話です。
研修期間中に交番勤務をすることはあっても、異動先として交番という選択肢はありません。

一方、巡査から採用した警察官は、違う部署への異動というのは常日頃行われています。

刑事から留置管理、捜査一課から捜査二課という異動は普通に行われます。
警察は幅広い事象を扱うため、幹部となるには他部門の業務を知る必要があります。
財務捜査に特化した人が警察署長を務めるのは、難しいかと思います。
幹部職員の場合、部門間調整は不可欠で、実際に他業務も広く浅く経験していることが必要となります。

それでは財務捜査官として、同じ部署で昇任することができるかといえば、それも困難です。
公務員には所属ごとの定員が決まっています。

定員は、1つの所属に対し、例えば、

警視 3人
警部 10人
警部補 20人
巡査部長 40人
巡査 60人

などのように決まっています。

階級が上に行くほど定員は限られています。

そうすると、上位の職に就く人は他部署との調整ができる経験者が重用されることになり、1つのことしかできない専門職をそこに置くことは難しくなります。

何でもできる専門職という矛盾

そのような理由から専門職である財務捜査官が昇任していくというのは、なかなか難しいことです。

それでは、財務捜査官も一般警察官同様に、警察全般についても経験して、財務捜査もできる警察官になればいいのかもしれません。

しかし、

  • 専門職

  • 何でも広く知っている

というのは、矛盾です。

もちろん専門家は他のことに無関心でいいということではありません。

ただ、財務捜査官として公認会計士、税理士の知識を維持し続けることは簡単なことでもありません。
毎年のように変わっていく会計法令への対応、実務のキープアップ、解析技術の向上などの時間だけでも相当労力が必要となります。

私のような凡人には、一つの専門性を維持するだけでも手一杯です。

昇任は必要か

さて、ネガティブな印象だったかもしれませんが、私が言いたいのは不満ではありません。

もともと財務捜査官として、それほど昇任に関心はなかったように思います。

財務に関する専門知識を犯罪捜査に役立てることに興味があったので、それができれば十分かと。
周囲の財務捜査官も、そのような方が多かったように思います。

もちろん昇任すれば、それはそれで嬉しいことです。

ただ、財務捜査による客観的な立証は、ポジションによって左右されるものではなく、昇任しなくても役割を果たすことは可能なように思います。

本日のまとめ

財務捜査官の昇任についてお話ししました。

全国財務捜査官の階級分布について詳しくは知りませんが、私は警視まで昇任することができたので、ここまで昇任することは可能です。

また、大阪府警の募集記事によると、大阪府警にも警視の財務捜査官が在籍されているようです。

昇任にはこだわらず、結果的に昇任できたらそれはそれで良しというのが私のスタンスです。

警視に昇任した後も、警部補時代同様に、捜索を行ったり、押収した資料を分析して捜査報告書を作成したりできたのも、財務捜査官ならではと思っています。