侮辱罪の具体例

法律の条文は、どれも抽象的な書きぶりとなっています。

例えば、侮辱罪については、刑法に

(侮辱)
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

とありますが、何が侮辱に該当するかまでは示されてはいません。

どの程度の侮辱であれば、侮辱罪が適用されるのか。
具体的に見てみます。

一般的な侮辱の程度

侮辱とは、事実を摘示せずに人の社会的信用を失墜させ、名誉感情を害することをいいます。
事実を示さない点が、名誉毀損罪とは異なります。

「バカ」、「アホ」などの表現は事実を示していないため侮辱罪となります。

具体的な侮辱の程度

ところで、「バカ」、「アホ」が侮辱になるにしても、このような単純な事例ばかりではありません。

SNS上の書き込みは、分かりやすい表現ばかりとは限りません。
告訴状を作成するにしても判断が難しいところがあります。

ところで侮辱罪については、令和4年に法定刑の引き上げが行われました。
その法改正にあたって開催された法制審議会の中の資料に「令和2年中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例」が掲載されています。

裁判所が侮辱罪として有罪判決を出した30の事例が紹介されていて、侮辱の判断基準となります。

一部を抜粋すると、個人を侮辱した事例として、次のものがあります。

通番1
SNSに「この子○○(地名)一番安い子!!お客様すぐホテル行ける!!最低!!」などと投稿するとともに,当該SNSにおける被害者のプロフィール画面を撮影した画像を掲載したもの。

通番6
SNSの被害者に関する配信動画で「BM,ブタ」などと放言したもの。

通番13
インターネット上の掲示板に「母親が金の亡者だから、稼げ稼げ言ってるらしいよ!育ててやってんだから稼いで金よこせ!って言われてんじゃないかしら?」,「子供達しょっちゅう施設に入ってたらしいよ」などと掲載したもの。

また、事業や業務と関係した侮辱事例として、次のものがあります。

通番3
SNSの投稿欄に「人間性を疑います。1人のスタッフを仲間外れにし,みんなでいじめる。1人のスタッフの愚痴を他院のスタッフに愚痴を言いまくる社長 1人のスタッフの話も聞けない社長」などと記載した文章を送信して掲載したもの。

通番18
インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に,「詐欺不動産」,「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと掲載したもの。

事例26
駅の柱等に「ご注意 ○○(被害者名) 悪質リフォーム工事業者です」などと記載した紙片5枚を貼付したもの。

(以上「令和2年中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例」から抜粋)

本日のまとめ

何が侮辱に当たるのかは、主観によるところもあり判断が難しいことがあります。

その点、このような法制審議会資料は、客観的な判断基準となります。

なお、侮辱罪については、令和4年に法定刑が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられ、これに伴い公訴時効も3年に延長となっています。

一方、侮辱罪は親告罪に該当するため、犯人を犯人を知った日から6か月以内に告訴がないと、犯人が起訴されることがありません。
インターネットを使った侮辱の場合、時間の経過とともにログなどの記録が消失してしまう可能性があります。
早めの対応が必要になります。