非上場会社の粉飾は何罪になるのか

上場会社が粉飾決算をした場合、金融商品取引法に定める有価証券虚偽記載罪に該当します。
古くはカネボウ、オリンパスなどの事例がありました。
最近ではプロルート丸光事件も。

ところで、有価証券報告書の提出義務がない非上場会社が決算書を粉飾した場合、何罪になるのでしょうか。

粉飾そのものの罪名は(ほぼ)ない

非上場会社が粉飾決算を行っても、粉飾自体を直接問う罪名はありません。

過去に、粉飾した決算書を国土交通省に提出し、特定建設業の許可更新を受けたとしたとして、建設業法違反事件で検挙された事例があります。
ただ、このような事例は稀かと思います。

また、粉飾した決算書に偽造した税務署の収受印を押して銀行に提出した場合、有印公文書偽造・同行使罪が適用されることもあります。
この場合には粉飾が違法とされるのではなく、申告書に押した収受印の偽造です。
令和7年1月以降税務署の収受日付印が廃止されるため、このような事件は発生しなくなるのかもしれません。

その他、税法違反に問われる可能性はあります。

詐欺罪

銀行に嘘の決算書を提出して融資を受けた場合、詐欺罪に該当する可能性があります。
株主が限られている非上場会社の場合、粉飾をする動機としては銀行から融資を受けるためというのが多いはずです。

詐欺が成立するには、

  • 人を欺くこと
  • その結果相手が錯誤に陥ること
  • 被害者からの交付行為
  • 財物・給付の移転

といった4つの要件が必要になります。
粉飾した決算書を提出してお金を騙し取ったのであれば、詐欺の4要件を満たすことになります。

ただ「銀行を騙した」というのであれば、売上高が少し違うとか、減価償却費を計上していないといった程度では足りないかと思います。
真実の決算書を提出したら、絶対に融資など受けられなかったというくらいの騙しは必要になります。

また、決算書は融資判断の重要な要素ではありますが、あくまでも一要素です。
過去の取引実績なども加味して銀行は融資を決めているはずです。
他の要素も考えないと、詐欺とまでいえない可能性もあります。

違法配当罪

粉飾の理由に、銀行から融資を受けること以外にもあるかもしれません。
例えば配当をするため。
非上場会社で配当をすることはほとんどありません。
それでも取引先、知人等から出資を受けている場合、粉飾をして配当することもあります。

真実の決算書では、純資産額が300万円未満の場合や、剰余金の分配可能額がなかった場合、会社法の違法配当罪が考えられます。

特別背任罪

会社の取締役が自分の利益を図る目的等でその任務に背いて会社に損害を与えた場合、特別背任罪が適用されます。
業績好調のように装って役員賞与を受けたり、役員報酬をアップさせた場合には、自分の利益を図ったことになりえます。

ただ、非上場会社の社長の多くは、会社の株主でもあります。
100パーセント株主であれば、自分の会社の損害と、自分の利得は同額となってしまいます。

また、会社法では、役員が会社に損害を与えた場合でも、総株主の同意があればその責任が免除されることになっています(会社法424条)。

民事で責任を問われないのに刑事責任が問えるのかという問題もあり、条文上はともかく、実務的には特別背任は成立しにくいと感じます。

本日のまとめ

2024年5月30日には大阪府警が医療機器製造・販売会社の粉飾を、6月18日には警視庁捜査2課がベアリング商社の粉飾をそれぞれ銀行に対する融資詐欺で検挙しています。

やはり、非上場会社の粉飾については、融資詐欺で検挙する事例が多いと感じます。