前回書いた「おかしな現金勘定の動き」。
人間である私が気付いた不自然さです。
ところで同じ資料をみて、AIは不自然さを感じるのでしょうか。
ChatGPTに聞いてみた
人工知能の代表格ChatGPTに現金勘定の不自然な動きを感じることはできるのでしょうか。
もちろん人工知能が「感じる」ということはありません。
不合理な動きということになるのだと思います。
早速、ChatGPTに前回使った現金勘定のエクセルを添付して質問してみました。

これはある会社の現金勘定です。
不自然な取引、動きはありますか。
あるいは、何か不自然さを感じますか。
この質問に対し、ChatGPTは次の回答をしてきました。
データを確認したところ、以下のような形式になっています。
日付
入金
出金
残高
摘要(取引の内容)
このデータを整理し、不自然な取引や動きを分析します。 整理したデータを表示しました。ここから、不自然な取引や動きを分析します。次に、以下の点を確認します。
残高の計算が正しいか(前の残高 ± 入出金 = 現在の残高)
異常な入出金のパターン(極端に大きな金額、頻繁な現金の出入り)
特定の摘要が異常に多いか、または不明瞭な摘要があるか
分析を進めます。
表の構成を分析し、「不自然」の定義をしています。
分析結果は、こちらです。
以下の分析結果を確認してください。
- 残高不一致の取引
- 1件の不一致がありましたが、実際の計算残高と一致しているため問題はないようです。
- 大きな入金取引
- 銀行からの引き出しなど、大口の入金が確認されました。
- 大きな出金取引
- 150,000円の仮払金がありました。このような仮払金は用途を確認する必要があります。
特に「仮払金」のような項目は、不正が隠れやすい取引の一つです。
この取引の詳細(誰に対して、何の目的で支払ったのか)を確認することをおすすめします。
予想された回答と、予想外の回答
予想された回答
数字の計算はChatGPTが得意とするところです。
- 式に矛盾はないか
- 大きな入金取引はなにか
- 大きな出金取引はなにか
についてチェックをするというのは、予想された回答です。
実際に人間がするときにも、同じことをしています。
- 計算式が正しいか
- 大きな取引の理由は何か
というのは、必ず確認をする事項です。
多くの場合、不正取引は大きな金額で行われます。
小さな金額の積み重ねによる不正がないわけではありません。
ただ、その場合、不正回数が多くなり発覚リスクも高くなるうえ、労力にも見合いません。
また、小さな不正が積み重なって多額になった場合、勘定科目に矛盾が出れば大きな金額で修正が必要になることもあります。
やはり大きな金額に注目するというのは、正統的なアプローチだと思います。
ここは予想の範囲内。
しかし、「大きな金額に注目する」ということを指示したわけでもないのに、分析方法として選んだことは想定外のことでした。
予想外の回答
ChatGPTの回答は、摘要欄にも着目しています。
- 「仮払金は用途を確認する必要があります。」
- 「特に「仮払金」のような項目は、不正が隠れやすい取引の一つです。」
- 「この取引の詳細(誰に対して、何の目的で支払ったのか)を確認することをおすすめします。」
という回答は予想外でした。
「仮払金には不正が隠されていることがありますか」という質問をしたのであれば、上の回答は想定内です。
しかし、
- 15万円という出金は異常値である
- 異常値には不正が隠されている可能性がある
- 今回の資料で異常値とされた取引の摘要は「仮払金」である
- 「仮払金」の内容を確認することをおすすめする
という考えを瞬時に導き出したのは想定外のことでした。
財務捜査の初心者に質問しても、ここまでの回答は得られないと思います。
本日のまとめ
ChatGPTの分析能力はおおむね予想されていたことではありますが、現金勘定を分析して「仮払金」に着目するようにという指摘は予想外でした。
一方、現金勘定がそもそも大きすぎるという不自然さへの言及はなく、この点は生成AIの限界なのかもしれません。
会計監査の実務では、すでにAIが広く導入されているようです。
帳簿の動きに不審点を感じたら、AIに取引データを分析してもらうというのも一つの選択肢になりそうです。