行政書士は青色申告? 白色申告?

5月に行われた行政書士会の入会式では事務所の経理処理についても説明がありました。
事務所経理も行政書士にとって大切なこと。
今回は青色申告、白色申告についての話です。

なお、記事タイトルは「行政書士」としていますが、他士業、個人事業主の方にも共通する内容となっています。

青色申告、白色申告とは

青色申告制度とは、正確な記帳に基づき適正な申告を行う納税者に対して、特典を与える税制上の優遇制度です。

青色申告以外の申告を白色申告といいます。

結論からいえば、行政書士の場合、青色申告を選択することになります。
制度上は白色申告をすることも可能ではあります。
しかし青路申告にはメリットが多く、白色申告と比較して事務負担もそれほど高くはありません。
また、正確な記帳と決算書の作成は、事務所運営をする上で欠かすことはできません。

以下、青色申告のメリットを確認しておきます。
なお、青色申告制度の概要については、国税庁タックスアンサー「No.2070 青色申告制度」も参照ください。

青色のメリット

青色申告のメリットは大きく4つあります。

メリット1 青色申告特別控除が受けられる

青色申告特別控除とは、事業所得がプラスになったとき、そのプラス金額を限度として所得金額を差し引く制度です。

青色申告特別控除には65万円、55万円、10万円の3種類があり、それぞれ要件が異なります。
会計ソフトを使いe-Taxで申告をすれば、65万円の特別控除を受けることが可能です。

参考 国税庁タックスアンサー「No.2072 青色申告特別控除」

65万円控除の要件

65万円の特別控除を受ける要件としては、次のものがあります。

  1. 貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、翌年3月15日までに申告書を提出すること。
  2. 複式簿記の方式により記帳を行っていること
  3. 次のいずれかの要件を満たしていること
    • 仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること。
    • 確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出をe-Taxを使用して行うこと。

「複式簿記」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、普通の簿記のことです。
1つの取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の2つに分けて記入することから、「複式」と呼ばれます。
ちなみに、入出金だけを記録する簿記は「単式簿記」といいます。

freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計などの会計ソフトは複式簿記に対応しています。
また、これら会計ソフトでは、入力結果をもとに貸借対照表、損益計算書を作成することも可能です。

会計帳簿を電子帳簿要件を満たして保存するか、e-Taxで申告することで65万円控除を受けることができます。

55万円控除の要件

上記65万円控除の要件のうち3.(電子帳簿保存またはe-Tax提出)を満たしていない場合。

10万円控除の要件

上記65万円、55万円控除に該当しない青色申告。

具体的なメリット

では、具体的にどの程度の特典があるのか。

例えば、課税される所得金額が500万円の人が、65万円の特別控除を受ける場合で考えます。

    白色申告     青色申告(65万円控除)
 所得金額         500万円 500-65万円=435万円
 所得税額       572,500円        442,500円

所得金額が65万円減少し、それにともない13万円の節税となっています。

メリット2 純損失の繰越しと繰戻しができる

行政書士を開業した当初は、多額の売上が見込めず損失になることがあります。
また、事業は常に右肩上がりとは限らず、赤字経営になることもあります。

このような場合でも青色申告であれば、事業所得の損失を翌年以降3年間にわたり繰り越して黒字と相殺することが可能です。

具体的なメリット

例えば、令和6年は100万円の赤字で、令和7年は300万円の黒字だったとします。

所得税額は、

  • 白色申告の場合 → 令和6年 税額ゼロ、令和7年300万円に対する税額 202,500円
  • 青色申告の場合 → 令和6年 税額ゼロ、令和7年200万円に対する税額 102,500円

となります。

 白色申告の所得税額  青色申告の所得税額 
令和6年
(赤字100万円) 
          0円          0円
令和7年
(黒字300万円)
前年赤字を繰越不可
→300万円に課税
   税額 202,500円
前年赤字を繰越可
→200万円に課税
   税額 102,500円

純損失の繰越しにより、税額が10万円軽減されています。

同様に赤字になったときに前年の黒字額を使える繰戻し制度もあります。

メリット3 青色事業専従者給与が受けられる

所得税では、原則として家族に支払う給与を経費とすることはできません。

その例外が青色専従者給与です。

青色専従者給与とは、青色申告者の配偶者や15歳以上の親族がその事業にもっぱら従事している場合、その人に支払った給与について、

  • 事前に提出された届出書に記載された金額の範囲内
  • 専従者の労務の対価として適正な金額

という要件を満たせば必要経費にすることができます。

なお、白色申告にも同様の事業者専従者控除制度がありますが、控除制度であって支払った給与を経費とするものではありません。

参考 国税庁タックスアンサー「青色事業専従者給与と事業専従者控除」

メリット4 少額減価償却資産の特例適用を受けられる

少額減価償却資産とは、取得価額30万円未満の資産について、年換算額300万円を限度として、その年の経費とすることができる制度です。

本来資産については、減価償却という手続により複数年にわたり取得価額を費用化するのが原則です。
これに対し、青色申告者については、その年の経費として認めるという特例になります。
なお、上限300万円ついては年額換算のため、開業初年度は満額を費用計上できないこともあります。

参考 国税庁HP

白色のメリット

白色申告のメリットはほとんどありません。
白色申告であっても一定の記帳義務があります。

参考 タックスアンサーNo.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度

複式簿記

青色申告をためらう方の多くは「複式簿記」を難しく感じることにあるようです。

確かに簡易な帳簿に比べれば面倒に見えますが、経営管理の点からはあまりお勧めできません。

入出金記録を中心とした記帳の場合、経営状況を知るための資産、負債、資本(純資産)、収益、費用を把握することがほとんどできません。
行政書士業務を永続的に行うには、経営を知ることは不可欠です。

現在ではそれほど簿記の知識がなくても入力できる会計ソフトが豊富にあります。
ソフトの利用料金は必要ですが、青色申告の特典を受ければ十分元は回収できてしまいます。

青色申告の承認申請

所得税の申告を青色申告で行うには、承認申請が必要となります。

青色申告承認申請書は、

その年の3月15日まで(その年の1月16日以後新たに事業を開始した場合には、その事業開始等の日から2月以内。)

となっています。

忘れないように開業届と同時に提出することをお勧めします。
また、開業届には、青色申告承認申請書の提出有無について記載欄が設けられています。
こちらもチェックを忘れないようにします。

参考 国税庁タックスアンサー A1-8 所得税の青色申告承認申請手続

本日のまとめ

個人の行政書士の方の場合、会計ソフトを使って青色申告を選択している方がほとんどだろうと思います。

ところで今回は個人事業主である所得税に関する青色申告制度について説明しましたが、株式会社などに適用される法人税にも青色申告制度が存在します。
適正な帳簿作成については同様の制度ですが、メリットは同じではありません。
ネット記事、解説本を一読したときに混同しやすいので注意してください。