財務捜査は客観性が高いと評価されています。
「数字は嘘をつかない」とも言われます。
しかし、数字で示されるから客観的と言っていいのか。
そこには一定の前提があるように思います。
嘘つきは数字を使う
「数字は嘘をつかない」と言われることがあります。
一方、財務捜査を進めるうえでは、「嘘つきは数字を使う」と念頭におく必要があります。
数字で示されることが真実とは限りません。
数字を巧みに利用して、意図的に誤解を与えたりすることも可能です。
- 都合のよい対象期間を選んで、トレンドを強調したグラフを作る
- 平均値と中央値の違いを無視し、「平均」として示す
- 偏りのある集団を対象に調査を行い、その結果を一般的な傾向のように公表する
といった手法が取られることもあります。
切り取り方一つで数字を良くも悪くも見せることができてしまいます。
粉飾決算も数字を使っている
考えてみれば、財務捜査が扱う粉飾決算も数字を使っています。
粉飾決算では、会社の業績を良く見せるために、
- 売上を増やす
- 経費を減らす
といった嘘の数字を記した決算書を作成しています。
嘘つきが数字を使う典型例です。
一方で、財務捜査では、粉飾された決算書を見抜くことになります。
客観性の根拠
財務捜査の客観性は、数字を使っているからではありません。
数字の根拠を重視しています。
資料の客観性
まず、財務捜査では、捜査対象とする資料の客観性を重視します。
刑事訴訟法では、作成者を尋問などすることなく商業帳簿を証拠にすることが認められています。
第三百二十三条
引用:e-GOV
第三百二十一条から前条までに掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一 戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二 商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三 前二号に掲げるもののほか特に信用すべき情況の下に作成された書面
この帳簿をもとに捜査を行う財務捜査には、一定の根拠があると言えそうです。
なお、この条文では、
- 商業帳簿以外でも、業務の通常の過程で作成された書面
- 特に信用すべき情況の下に作成された書面
も証拠として認めており、財務捜査で使う書面の多くは、これらに含まれることになります。
他の資料と照合する
ただ、帳簿が証拠として認められたとしても、その内容が正しいとは限りません。
そこで、客観性の高いデータと照合し、事実を確認していくことになります。
- 銀行の取引記録
- 領収書、請求書などの書類
- 手帳の記録
- メモ
などと照合し、正確性を確認していくことになります。
捜査の過程を明示する
捜査の結果は、捜査報告書としてまとめられます。
捜査報告書では、
- 使用した資料
- 捜査の手順
を細かく記し、客観的に作成したことを明示しています。
捜査が再現でき、誰が行っても同じ結果となるのが基本です。
本日のまとめ
「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」とは、政治アナリストの伊藤惇夫さんの言葉と聞いています。
名言です。
在職中、「財務捜査は数字を使うから客観性が高い」としばしば言われました。
評価をいただいて嬉しい反面、使い方を間違えると怖い部分もあります。
数字が客観性に支えられているのか。
その前提が重要と思います。