横領が発覚した場合の会計処理です。
想定事例
会社の経理職員が、架空外注費を計上し自分の口座に資金を振り込んでいた場合を想定します。
横領した経理職員は、会計帳簿に
(借方)外注費 ××× /(貸方)預金 ×××
と記入しているはずです(消費税の処理は考慮していません)。
自分で架空外注費の請求書を作成し、これを経費支払の書類に紛れ込ませて上司の決裁をとり横領する。
このような手口はよくあるかと思います。
さらに上司の決裁もなく、勝手に振り込んでいることさえ見かけることがあります。
どちらにしても、上記仕訳を行っていることが多いはずです。
修正の仕訳
ところで、ある日この横領が発覚した場合、会計処理をどうするのか。
基本的には
- 計上されていた外注費を取り消す
- 損害賠償請求の仕訳を起こす
ということになります。
これらの仕訳は、
(借方)横領損失 ××× /(貸方)外注費 ×××
(借方)未収入金 ××× /(貸方)雑収入 ×××
となります。
2行目の未収入金とは、横領した従業員に対する損害賠償請求権のことです。
従業員から後日支払いを受けるため、未収入金として計上するものです。
未収金、損害賠償請求権といた勘定科目を使うこともあります。
貸方は雑収入等の収益科目になります。
仕訳を行う時期
では、この修正処理をいつ行うのか。
考え方としては、
- 横領があった期に行う(同時両建)
- 損害賠償の請求を行った期に行う(異時両建)
の2つがあります。
同時両建処理をするには、すでに決算も終わり確定申告書も提出しているため、過去分については修正申告をすることになります。
図にして示すと、次のような感じです。
この2つの考えのうち、一般に行われているのは1の同時両建処理です。
同時両建とは
同時両建処理の考え方は、
- 横領がされた時点で損害賠償請求権は発生している
というもので、横領があった期に損害賠償請求権の処理を行うべきだというものによるものです。
今期からみれば、横領は過去のことです。
横領があった事業年度にさかのぼり、修正申告をすることになります。
異時両建とは
同時両建て処理というのは理論的ではありますが、知らないところで被害をうけていた場合損害の認識ができません。
参考になるのは、次の法人税基本通達です。
(損害賠償金等の帰属の時期)
2-1-43 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加、平12年課法2-7「二」、平23年課法2-17「四」により改正)
(注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補填される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
この通達によると、損害賠償金を税務上収益として計上するのは、
- 支払を受けるべきことが確定した日
- 実際に支払を受けた日
の属する事業年度となっています。
ただし、前提として「他の者から支払を受ける」となっているため、役員・従業員の横領による損害賠償について適用は難しいかと思います。
というのは、会社の内部不正については、調査をすれば気付くことができるためです。
そこが社内と社外とで扱いが異なる理由になります。
本日のまとめ
横領被害にあった場合の、会計処理について概略を書いてみました。
2つの方法がありますが、基本的には同時両建を行うことになります。
しかし「他の者から支払を受ける損害賠償金」と同一視できるような状況では、異時両建が適用できる余地があるかもしれません。
本日の内容は、一般的な会計処理方法となっています。
個別具体的事案については、その内容に応じて会計処理を検討する必要があります。