個人事業を開業するために特別に支出した費用は、「開業費」として経理します。
開業費は任意償却できるため、費用を黒字になった年に繰り越すことができます。
ただし、開業のために使ったお金のすべてが「開業費」となるわけではありません。
開業と費用
個人事業の「開業」の日について、明確なルールはありません。
一般的には、
- 店舗であれば、店を開いた日
- 事務所を借りた場合には、事務所開きの日。
- 自宅事務所の場合には、対外的に業務開始を告げた日
などとなります。
店舗を開くにも、事務所をオープンするにも何かと費用がかかります。
「開業費」と具体的適用
開業前に支出した費用のうち、開業準備のために特別に支出したものについては、「開業費」として繰延資産計上をします。
本来「費用」となる支出を「繰延「資産」」とすることで、支出した年以降の費用とすることができます。
開業費については、所得税法施行令7条1項1号に定義がされています。
条文を読むと「事業所得…(略)…を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。」と書いてあります。
要件としては、
- 費用であること
- 特別に支出するもの
ということです。
逆にいえば、費用でない支出(資産となるもの、個人的な支出)、特別に支出されたもの以外については開業費として計上できません。
開業費の具体例
一般的に、次のような判断基準となります。
内容 | 具体例 | 開業費 | 備考 |
市場調査費 | 開業に当たっての調査費用 | ○ | |
事務所家賃 | 開業までの家賃 | ○ | |
礼金 | 事務所賃借時の礼金 | × | 開業費以外の繰延資産 |
事務所仲介手数料 | 不動産会社に対する手数料 | ○ | |
敷金 | 後日返還を受ける敷金 | × | 敷金として資産計上 |
仕入代金 | 商品等の仕入 | × | 仕入として計上 |
看板等設置費用 | ○ | ||
Webサイトの制作費 | 業者に依頼した費用 | ○ | |
借入金利子 | 金融機関からの利子 | △ | 資産の取得に要したものを除く |
打ち合わせ諸費用 | 会議費、飲食代 | △ | 特別に支出した費用 |
パソコン等OA機器 | パソコン、プリンター等 | △ | 10万円以上は資産計上 |
職印 | 行政書士、税理士等の職印 | ○ | |
入会金 | 行政書士会、税理士会等の入会金 | × | 開業費以外の繰延資産 |
名刺作成費用 | ○ | ||
交通費 | △ | 特別に支出した費用 | |
研修費 | 開業に向けたセミナー、書籍代 | △ | 特別に支出した費用 |
(一般的な判断基準です。個別事案によって異なることもあります。)
開業費のさかのぼり
開業の準備にかかる期間はそれぞれによって異なります。
広く捉えれば相当な過去まで開業準備と見えるかもしれません。
ただ開業のための「特別な支出」という要件もあります。
通常、開業準備という場合、数か月、長くても1年程度が一般的です。
経理処理
開業費を支出したとき
開業費を支出したときは、
(借方)開業費 ××× /(貸方)元入金 ×××
という仕訳になります。
1件1件の開業費は少額のことがあるので、まとめて開業日に計上すると後に償却費を計上するときに便利です。
開業費を償却するとき
一方、開業費の償却するときは
(借方)開業費償却 ××× /(貸方)開業費 ×××
という仕訳になります。
この開業費の償却計算には原則と例外があります。
実務においては、例外処理を使うことが多いかと思います。
原則計算
原則的な開業費の償却計算は、60か月にわたり規則的に行うことになります。
開業のために特別に支出した費用の効果は、5年間(60か月)に及ぶという考えです。
例えば、開業費60万円を計上し、11月に開業した場合の今年の償却費は、11月、12月の2か月間分を償却するため、
600,000円 × 2/60 = 20,000円
となります。
例外計算(こちらが実務上多い)
開業費については任意償却も認められています。
任意償却では、任意の年に任意の額を償却費として計上することができます。
例えば、開業から3年間は赤字が続いていて、4年目に黒字になったときその4年目に開業費を償却しても構いません。
任意償却は開業費の残額の範囲内であれば、いつ、いくら計上するのも自由です。
(参考)償却期間経過後における開業費の任意償却 (国税庁・質疑応答事例)
本日のまとめ
個人事業を開業するに当たっては、諸経費の支払が相当な金額になることがあります。
開業して当面は赤字になることが多いため、開業費を計上することで開業にかかった費用を黒字年度に繰り越すことが可能となります。
なお、開業費の「特別に支出した費用」の解釈については、支出内容によって判断することになります。
明確に説明できるよう、領収書の保存や支出内容を記録しておくことをお勧めします。