私の業務メニューには「不正調査」があります。
警察で25年間、財務捜査に従事してきた経験から、帳簿を見て不正を見つけることが得意分野の一つになっています。
この警察での捜査経験を、できるだけ社会に還元したいと考えています。
一方で、警察の捜査と不正の調査の差異についても気を付けています。
不法を扱う財務捜査
警察での財務捜査の目的は、「不法」であることを立証することにあります。
不法とは、刑法あるいはその他の刑罰法令に該当することを、捜査機関として立証することを意味します。
法律というルールがあり、ある人の行為がそのルールに抵触することを立証するのが捜査です。
これを会計帳簿というツールを用いて行うのが財務捜査ということになります。
不正と不法
法律に抵触する行為は、不法かつ不正といっていいと思います。
法律という規範があるためです。
しかし、世の中にある「正しくないこと」がすべて不法なわけではありません。
そもそも「正しい」とは何かという根本問題があります。
会社の就業規則などルールがあれば、これに抵触していれば基本的には「不正」です。
数字は「不正」を立証しやすいと思います。
例えば、客観的な取引金額と帳簿に書かれた金額が違っていれば形式的には「不正」です。
しかし、立ち止まって、それでいいのかといえば疑問もあります。
数字が異なっていても、そこに故意がないと不正とは言うのは難しいと思います。
例えば、1,000円の領収書に対し、会計帳簿には10,000円と書かれていたとします。
これは、形式的には「不正」ですが、単なる記載ミスつまり「過失」の可能性もあります。
これを分けるのは、この行為をした人が、利得を得る目的であったかによるのだと思います。
- 1,000円の領収書に対し帳簿に「10,000円」と記載し、会社から1,000円しか受け取っていない → 書き間違い
- 1,000円の領収書に対し帳簿に「10,000円」と記載し、会社から10,000円を受け取っている → 不正
つまり不正とは、事実と違うことではありますが、そこに故意がなければ単なる書き間違い、つまり過失の可能性があります。
この判断基準の一つは、利得の有無になります。
「不当」とは何か
一方で、「不当」というものもあります。
例えば、何も仕事をしていない形式的な役員に対して、不相応に高い報酬を支払っている場合などが考えられます。
これは税務上の過大役員報酬などの問題はありますが、直ちに不正とは言えません。
業務に対する報酬をいくらにするかというのは、それぞれの判断によることになります。
「一般的に考えておかしい」、「常識から外れている」といっても、「一般的」「常識」というのは曖昧な基準です。
通常の常識から考えればおかしいのですが、帳簿にはそのとおり書いてあり、実際にその金銭が支払われているといった場合、不正というよりも「不当」――つまり評価の問題になります。
3つの関係
警察の財務捜査は、不法であることの立証を中心としています。
その点ではわかりやすいと思います。
しかし、不正界隈には、
- 事実とは異なるが、不正とはいえない行為
- 不正ではあるが、不法でない行為
- 不当ではあるが、不正とはいえない行為
というのもあります。
この区分を明確にしていくのは議論を明確にする前提であるように思います。
本日のまとめ
不正と不法と不当。
これらは似ていますが、厳密に区別する必要があります。
この区別と関係性が曖昧だと、ぼやっとした調査で終わってしまいます。
このあいまいさをなくし明確に区分することが不正調査には不可欠と思っています。

