これから法人を設立される方から相談を受けることの一つに、「事業年度(決算期)をいつにするか」があります。
法人の決算期は自由に決めることができます。
いろいろ迷うところですが、いつにしても基本的に税金は変わりません(消費税については、若干考慮が必要です。)。
税金面よりも、業務の繁忙期などを考慮するのが良いかと思います。
基本的に税金は同じ
まず大前提として、事業年度は1年が基本です
(初年度だけは、設立日と決算日の関係で通常1年未満となります)。
1年を超える事業年度とした場合でも、法人税の申告は1年ごとに行います。
また、基本的に、いつを決算期にしても、納める税金の額は変わりません。
法人税は、「その1年間で稼いだ利益(所得)」に対して課税されるものです。
1月から12月で区切ろうが、4月から翌年3月で区切ろうが、利益が出ていれば税金は発生しますし、赤字であれば発生しません。
「〇月決算にすると節税になる」といったことはありませんので、まずは税金を考えずに決めることになります。
12月・3月決算のメリットはない
一般的に馴染みのあるのが「12月決算」、「3月決算」です。
多くの上場企業は3月決算です。
また、グローバル企業を中心に12月決算もメジャーとなっています。
特別な事情がなければ、12月決算、3月決算にするメリットはありません。
むしろデメリットになる可能性も考えられます。
12月決算の場合:個人の確定申告と重なる
税務申告には、大きく、個人が行う所得税の確定申告と、法人が行う法人税の確定申告があります(これに消費税も加わります。)。
所得税は個人の1月から12月までの1年間の所得を計算し、これを翌年3月15日までに申告することになります。
一方、法人の決算期は選ぶことができます。
そして、申告期限は、基本的に決算日の2か月後です。
法人の決算期を12月とした場合、法人税の申告期限は2月末日となります。
税理士事務所にとって、1月から3月中旬までは、個人の確定申告で最繁忙時期となります。
税理士に法人の申告を依頼するには、良い時期とはいえません。
もちろん12月決算の法人についても税理士事務所は対応していますが、わざわざ繁忙期に重ねるメリットはないように思います。
また、自分で法人税の申告書を作成する場合でも、自分の確定申告もあれば、法人の申告と並行作業で行うことになってしまいます。
3月決算の場合:決算法人が多い
3月決算とした場合、法人税の申告期限は5月31日となります。
この時期であれば、税理士事務所の繁忙期も脱しているはずです。
しかし、決算の準備、決算手続は確定申告時期と重なります。
また、もともと3月決算法人が多いため、依頼したい税理士事務所の手が空いていなかったり、決算対策の打ち合わせ時間を十分に確保しにくい可能性があります。
もちろん過度に税理士の都合を考える必要はありませんが、メリットはないように思います。
初年度の考慮点
基本的に、決算期はいつでも構いませんし、対応してくれる税理士事務所があれば12月、3月決算でも問題ありません。
ただ、初年度については、超短期にならないような注意も必要です。
各事業年度は基本的に1年となりますが、初年度については1年とならないのが普通です。
3月に9月決算の法人をつくった場合、必然的に1年未満となります。
設立初年度は1年未満となるのが普通とはいえ、例えば、1月設立の3月決算法人とした場合、初年度の2~3か月程度しかないことになります。
会社を設立して忙しいうえ、売上がほとんどない中で、すぐに決算を迎えるというのは得策ではありません。
閑散期がベストではないか
結論的に、会社の決算期は、業務の閑散期に設定するのが良いと思います。
決算作業には、在庫の棚卸しや、請求書・領収書の整理など、多くの事務作業が発生します。
本業が一番忙しい「稼ぎ時」に、こうした事務作業に時間を取られるのは避けたいところです。
例えば、デパートや小売業界では「2月決算」の会社が多くあります。
これは、年末年始の商戦(繁忙期)が終わりお客様の動きが落ち着く2月に決算を持ってくることで、在庫確認などの事務負担を平準化できるためと言われています。
また、繁忙期の売上で納税資金を確保できるメリットもあります。
「この月は比較的余裕があるな」という時期を決算期にすることで、経営にゆとりが生まれると思います。
【補足】消費税を考慮する場合
冒頭で「いつ決算でも税金は変わらない」と書きましたが、消費税については少し注意が必要です。
まず、消費税の「インボイス発行事業者」として登録し、消費税の申告で「2割特例」を受ける予定がある場合です。
「2割特例」は、令和8年(2026年)9月30日までの経過措置です。
この2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となっています。
そのため9月30日より前の8月決算などにしたほうが、特例を受けられる期間が延びることになります。
これは一時的な経過措置の話ではありますが、消費税の負担は資金繰りに直結します。
ここは少し考慮しても良いかと思います。
その他、インボイスの登録をしない場合、初年度の事業年度を7か月以下にすることで売上規模によっては消費税の免税期間を延ばせることもあります。
消費税については、若干、考慮が必要となるかもしれません。
まとめ
決算期をいつにするかは悩ましいところではありますが、基本的に税額は変わらないため、事務負担を中心に考えるのが良いように思います。
なお、一度決めた決算期も途中で変更することは可能です。
実際に運営して不都合が生じた場合には、検討しても良いかもしれません。

