認識をどう出すか

財務捜査では、しばしば「認識」が問題となります。
要するに「知っていたか」ということです。

外形からすれば犯罪に該当する行為でも、本人に認識がなければ罪には問えないことがあります。

現在、静岡県の市長の学歴について詐称との指摘がされています。
一方、市長は除籍を知ったのは最近のことだとしています。
そうだとすると、嘘を言ったのではなく、結果的に虚偽の公表になったに過ぎません。

これも認識の問題です。

認識が問題になるとき

財務捜査では、「認識」が問題になることがしばしばあります。

例えば、工務店がマイホームの受注を受けた直後に倒産した場合、詐欺が疑われます。
すでに倒産状態であれば、客から工事代金を受け取ってもマイホームが建たないのは明らかです。
その状態を知っていながら、建築を勧め、資金を受け取れば詐欺の可能性はあります。
実際に検挙事例もあります。

この事件捜査で難しいのは、会社の経営状態に関する認識です。
社長であれば、本来、会社業務全般を掌握しているはずです。
しかし、職人気質の社長であれば、経理をまったく把握していないこともありえます。
確かに経営状態は苦しいと知っていたが、倒産するほどと思わなかったというケースです。

銀行に対し粉飾決算書を提出し、融資を受ける詐欺事件も同様です。
経理部長に任せていて、自分は知らなかったと抗弁する社長もいます。

このような場合には、「社長は知っていた」ことを立証する必要があります。

立証の方法

社長が経営状態や粉飾の事実を知っていたことを立証することは簡単ではありません。
「認識」というのは内心です。
また、会社内での出来事がすべて文書化されているわけではありません。
「知らなかった」と言われた場合、反論が難しいことがあります。

その場合には、客観的事実を積み上げることになります。

  • 社内関係者からの聴取
  • 社内メールでのやり取り
  • 会社倒産であれば、破産に向けて検討が開始された時期
  • 銀行に対する詐欺であれば、銀行側の折衝記録
  • 社内会議での発言

といった事実を重ね、社長が知っていたことを立証することになります。

一方で、社長は常に明確な指示をするとは限りません。
部下が意向を汲んで実行することもありえます。
立証は容易ではないのが現実です。

本日のまとめ

市長の学歴詐称事案について、市議会は、議長に示した「卒業証書」とされる書類について、大学から提出された記録を踏まえ「正規に発行されたものでないことが明確」としています。
おそらく、

  • 卒業に必要な単位が大幅に足りていないという資料
  • 本人への通知文書等の写し

などを入手したのだろうと思います。

そうだとすると、市長は卒業していないことを知っていたはずです。
市長の大学卒業問題の報道から「認識」の問題を改めて思い起こしたところです。