現金はなぜ追跡できたのか

東京女子医大の元理事長による背任事件では、関係する建築士の預金口座に振り込まれた資金が現金として引き出されたのち、元理事長の側近であった元職員を介して元理事長に還流したと言われています。

現金に色はないといいますが、どうして元理事長に現金が渡ったとわかったのでしょうか。

色がない現金

現金が絡む事件の捜査は難しいというのが定番です。

現金が受け渡しに証拠が残りません。
口座振込であれば資金の移動は一目瞭然。
しかし、預金口座から引き出された現金を追うのは簡単ではありません。

今回の東京女子医大の元理事長による背任事件では、大学から建築士に報酬名目で資金が渡されたようです。
大学側からは建築士へ銀行振込で支払われています。
ここまでの資金トレースは難しくありません。

問題はこの先です。

建築士は、受け取った報酬から自分が支払う税金を差し引いた上で、口座から現金を引き出して、側近の元職員に手渡しています。

この手渡しがどうして判明したのか。

判明はSMS

報道によると、現金の受け渡しについては、元職員が建築士にショートメッセージ(SMS)で場所などを伝えていたとのことです。

ショートメッセージが残っているならば、現金のやりとりは強く推認されます。

金額も書かれていたかもしれません。
これであれば、口座から引き出された現金を追えそうです。
ショートメッセージの内容と預金口座からの引出し内容が一致するかを確認することができます。

受け渡しの確認

ここまでで現金が引き出されていたことが分かったとしても、受け渡しをしたかまではわかりません。
次に、現金の引き出しを建築士がしていたことを確認したいところです。

建築士が引き出した状況は、銀行の防犯カメラ画像などで確認できるかもしれません。
ただ、大学の卒業生が元理事長を告訴したのが2023年の3月。
最初の逮捕容疑は2018年から20年2月の事件。
防犯カメラ画像は残っていない可能性が高いと思われます。

元職員が受け取ったということの確認も難しいかもしれません。
受け渡し場面の画像があれば明確ですが、おそらくそのようなものはないはずです。
しかし、受け渡し前後のショートメッセージの文脈から受け取ったことはわかりそうです。
元職員も供述しているかもしれません。

帳簿も気になる

ところで、資金還流を仲介した形になる建築士は、受取った現金から自分が支払う税金分を差し引いて現金を渡していたとのことです。

ということは、建築士は帳簿をつけて確定申告をしていたのだと思います。

建築士が業務用の口座から現金を引き出したときの会計処理が気になります。
摘要欄に元理事長関連をうかがわせるような内容であれば、還流を示す証拠の一つとなりそうです。

本日のまとめ

「現金に色はない」といわれます。
確かにそのとおりです。

一方、捜査は、色のない現金に色を付ける作業とも考えられます。

現金であっても、資金の追跡が可能なケースはあります。
今回はショートメッセージにその痕跡が残っていたようです。