倫理規定で社内不正は防止できるのか

社内不正の防止方法として、「倫理規定」の制定が言われることがあります。
「倫理規定」があれば、社内不正が防止できるのか。

もしできるのであれば、ほとんどコストをかけることなく不正を防止することができます。

倫理規定と不正の防止

企業の倫理規定が、不正を許さない社風を形成するといわれることがあります。
実際、優れた企業には、「クレド」「ミッション」など名前はさまざまですが、倫理規定が存在します。

代表例として、ジョンソン・エンド・ジョンソンの事例が紹介されることがあります。

同社では、すべてのステークホルダーに対する責任をクレドとして定め、倫理的な判断を行う際の指針としています。

実際に、1982年に起こった解熱鎮痛薬のタイレノールに外部から薬物が混入されたとされる事件では、当時の金額でおよそ1億ドルをかけ、全製品3,100万本を自主回収するなど、クレドにある顧客に対する責任を果たしています。

このような会社の基本姿勢、理念を従業員が体得していれば、従業員の不正も減少するように感じます。

エンロンにも倫理規定はあった

倫理規定によって不正が防止できるとするならば、不祥事が発生した会社には倫理規定がなかったことになるはずです。

しかし、アメリカの巨額不正があったエンロンにも立派な「ビジネス倫理」がありました。

全6項目からなる規定では、

「わが社と関わるさまざまな関係者-顧客、株主、政府、従業員、取引業者、メディア、金融機関-とは、誠実に、率直に、そして公正に接する。」

で結ばれています。(引用参照:マックス・H・ベイザーマン, アン・E・テンブランセル 著ほか. 「倫理の死角 : なぜ人と企業は判断を誤るのか」、NTT出版、2013.9 )。
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現実問題として、現在では、日本の上場企業のほとんどすべてにコンプライアンス委員会などが設置され、倫理規定、行動規範などが制定されています。

結局のところ

結局のところ、倫理規定の有無よりも、倫理観が社内に浸透しているかがポイントのようです。

前出の「倫理の死角:なぜ人と企業は判断を誤るのか」にも

「公式のコンプライアンス・システムの実効性が弱いのは、その制度の設計に欠陥があるからというより、非公式な組織文化に圧倒されて影響力をかき消されてしまうことが原因の場合も多い。」

とあります。

また、同書には、エンロンを監査していたアーサー・アンダーセンにおいても、

  • 「職業倫理基準部」に属する人たちが「2級社員」的な扱いを受けていた
  • 社内で倫理を話題にすると「異星人を見るような目で見られた」

などのエピソードも紹介されており、ルールはあっても社内に浸透していなかったり、形式となっていれば意味がないことが窺えます。

他書の参照

また、岡本浩一、堀洋元、 鎌田晶子、下村英雄 著.「職業的使命感のマネジメント : ノブレス・オブリジェの社会技術」(新曜社、 2006.6)では、社会的使命の強い職業として消防官を対象にした調査結果を紹介しています。
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職業的自尊心を「職務的自尊心」「職能的自尊心」とに区分したうえで「職務的自尊心は違反を抑止する」としています。

倫理規定があることよりも、実際に働く人たちの意識が不正防止に役立つのだと感じます。

本日のまとめ

倫理規定を作った方がいいのか、作らない方がいいのかという選択肢であれば、作るのが良いということにはなります。

しかし、倫理規定は作成すればそれで不正が防止できるわけではありません。
それは、過去に不祥事を起こした会社でも倫理規定があったものの、無力であったことが証明しています。

倫理規定はあった方が良いとは思います。
しかし、それ以上に、倫理規定が組織に浸透していることが不正防止の条件と感じます。