どうして原本を確認しないのか

不正調査では、かならず原本を確認します。
原本確認の重要性は、ことさら強調するまでもない話のようにも思えます。

しかし、実際にコピーで済ませたり、場合によってはまったく照合していない事例も現実にはあります。

不正と改ざん

会社内の不正に書類の改ざんは付きものです。

例えば、会社の銀行口座から現金100万円を引き出して着服した場合、

  1. 100万円の引出し事実を帳簿に記載した場合
    →会社の現金残高は100万円増えるが、現金は自分が使っている
    →帳簿の現金残高と実際の現金残高が不一致
  2. 100万円の引出し事実を帳簿に記載しない場合
    →帳簿の預金残高と銀行の口座残高が不一致

ということになります。

2.の方法をとった場合、銀行の残高証明書を偽造するというのが一般的な手口です。

精査すれば

社内監査、あるいは、外部監査では銀行の残高証明書を確認することは、基本事項です。

しかし、このような記事もあります。

「名ばかり監査役に一石 横領見落とし責任、審理差し戻し」~日本経済新聞

名ばかり監査役に一石 横領見落とし責任、審理差し戻し - 日本経済新聞
監査役が従業員の横領を見落とした場合、責任は問われるのか。監査職務の根幹に関わる判決の行方に注目が集まっている。横領を見抜けなかった元会計限定監査役の賠償責任を巡る裁判で最高裁は、「責任なし」とした高裁判決を破棄。審理を差し戻した。専門家は「名ばかり監査役に一石を投じる」とみている。横領に気づけず「安直に監査役に就任す...

45年間監査をしていたということは、30歳で就任したとして75歳。
ベテランと言っていいのか、あるいは、業務がルーティンになっていたのか。

カラーコピーで気付かなかったらともかく、白黒コピーも認めていたのであれば、原本確認がされていないことになります。

リアルな話

実際に不正を見逃した話を聞くと、原本確認をしていない事例が多くあります。

  • コピーで済ませていた
  • 監査当日に現物の提示がなかったが、確認したことにしてしまった

ということが実際にはあります。

監査担当期間が長過ぎたり、監査を受ける側と親しい場合、緊張感に欠けることが多いようです。
また、疑っているようで悪いという感覚があるのかもしれません。

大事件の教訓

帳簿や残高証明書の偽造は、過去の事例でも多くあります。

大和銀行ニューヨーク支店での巨額損失事件でも、残高書の一部を消しゴムで消して数字を書き換えたり、取引明細を切り貼りするなどの工作をしています。

「告白」井口 俊英
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また、メディア・リンクス事件でも、通帳の100万円を10億円に書き換えた場面が登場します。

「粉飾の論理」高橋 篤史
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手口が単純すぎますが、改ざんが見逃されています。

本日のまとめ

原本を確認するのは、チェックの基本であることは誰でも分かります。
しかし、現実問題として、慣れが生じたり、監査相手と間違った信頼関係を築いた場合、原本確認が疎かになりがちです。

最近ではデジタル技術が進み、原本と見分けがつかない偽造も珍しくはありません。
少しでも違和感を覚えたら、コピーを疑う慎重さも必要です。