今月10月は、税理士会と行政書士会の会費徴収月に当たっています。
ともに、今年10月から来年3月までの半年分の会費を前払いすることになっています。
費用の前払いは、このような会費以外にも、家賃、支払保険料などでも発生します。
来年分の経費を今年の経費として計上していいのか?
このような疑問を持たれる方もいるかも知れません。
なお、文中では所得税としていますが、内容的には所得税・法人税に共通する話です。
原則
基本的には、費用の計上時期は、現金や預金で支払ったときではなく、その費用が発生した期間に行うのが基本です。
以前、売上の計上は入金時ではなく、確定した時期だと書いたことがあります。
これと同様の趣旨です。
支払ったときに費用を計上できるとした場合、
- 今年はもうかったから、来年の分もまとめて支払っておこう
- 今年は赤字だったから、支払は来年にしよう
という利益調整が簡単にできてしまいます。
これを避けるために、必要経費の計上も支払ったときではなく、その経費が発生した期間に計上することを原則としています。
例えば、今年10月に1年分の会費12,000円を支払った場合、必要経費に計上できるのは10月から12月までの3か月分だけです。
原則どおりに経理処理した場合
原則どおりに記帳を行った場合には、次のような仕訳となります。
1 支払時
10月に1年分の会費12,000円を支払ったときの仕訳は、次のようになります。
2 年末(法人の場合には期末)
10月に支払った会費のうち、9,000円分は来年会費の前払いになります。
そこで諸会費を前払費用に振り替えます。
3 翌年初(法人の場合には期首)
短期前払費用には特例がある
しかし、上記のように必要経費の算入をきちんと行うのは手間がかかります。
しかも前払いの対象となる会費、家賃、支払保険料等は、来年以降も継続して発生することが予想されます。
毎年毎年同じ作業を繰り返すのは面倒です。
そこで、所得税法基本通達では、「短期の前払費用」として次の例外規定を置いています。
37-30の2 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。(昭55直所3-19、直法6-8追加)
引用 : 国税庁HP https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/09.htm
なお、法人税についても、同趣旨の基本通達(法人税法基本通達2-2-14)があります。
短期前払費用とできる要件
短期前払費用として必要経費として認められるのは、次の要件を満たした場合です。
継続的に受けるサービスであること
会費、家賃、支払保険等の経費は、継続的なサービスを受ける対価として支払われるものです。
これらについては、短期前払費用の適用対象となります。
一方、新聞・雑誌の購読料のように物の購入の場合には、短期前払費用の対象外です。
ただし、新聞・雑誌が電子版であればサービスの提供なので短期前払費用が認められます。
また、一時的な前払金、頭金などについても適用はありません。
支払った日から1年以内に受けるサービスであること
支払った日から1年以内に受けるサービスに限られます。
1年を超えるサービスには適用がありません。
また、来年3月から始まるサービスを年内に支払ったとしても、「支払った日から1年以内」に該当しないことになります。
経理処理を継続すること
会計、税務の世界では、恣意的に収益、費用を計上することを基本的に認めていません。
売上、経費を好きなときに計上できると利益操作が可能となってしまいます。
そこで、この短期前払の適用を受ける場合には、今年だけでなく来年以降も継続して同じ処理をすることになります。
収益と紐づく経費は適用外
こちらは法人税法基本通達に記されています。
一般的ではないかもしれませんが、特定の収益と対応関係にある経費については、短期前払いの適用はないとしています。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
引用 : 法人税法基本通達2-2-14(注) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
本日のまとめ
10月は税理士会、行政書士会の会費納付月に当たっています。
両方とも、決して安い会費ではありません。
しかし、一方で研修も充実。
しっかりモトをとれるよう、業務に活かしてまいります。