キックバックはなぜ発覚しないのか

ときどき報道で、キックバック事件を目にすることがあります。
水面下では業者からリベートをもらうなどのキックバック事案は多いようです。
バックマージンと呼ばれることもあります。

従業員や役員が個人的にキックバックを受けた場合、背任罪に問われる可能性があります。
場合によっては詐欺罪になるかもしれません。

キックバック事件の典型

キックバックとは、取引先会社を巻き込んでリベート等を受け取ることをいいます。
この取引先としては、下請会社、協力会社のことが多いようです。
本来の請求額に水増金を加えるのが典型です。

正規の請求金額が100に対し、10を水増しした例でいえば、

  • 従業員が取引先に対し、自分の勤務先会社に水増分を加えた110の請求書を送らせる。
  • 取引先に110が支払われる
  • 取引先に入金された水増し分の10のうち、8を自分が受け取る

というのが目立ちます。

10を水増ししながら10全額受け取らないのは、取引先にもいくらか利益を渡すためです。
取引先にもメリットがありますし、不正を行う従業員としても取引先を共犯関係におくことができます。

キックバックはなぜ見つからないのか

キックバックは、通常の社内チェックで見つけることは困難です。
取引先から提出された請求書どおりに金額が支払われています。

売上金の横領であれば、売掛金残高と先方の買掛金残高を照合することでチェックができることがあります。
また、架空経費の場合も、請求書を詳細にチェックすることで不正がわかるかもしれません。

これに対し、キックバックでは

  • 「工事代金一式」のように請求書が書かれていた場合、水増がわからない
  • 取引先を通すので、勤務先会社が資金の流れを把握できない

といった難しさがあります。

関係者からの情報提供、あるいは税務調査で発覚することが多いように思います。

キックバックの罪名

従業員がキックバックを受け取った場合、刑法の背任罪に該当するのが基本です。
これが役員となると、会社法の特別背任罪です。

場合によっては、詐欺罪になるかもしれません。

背任罪の条文を確認すると、次のようになっています。

(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

出典 : e-Gov

従業員が自分の利益を図る目的で、従業員としての任務に背き、会社に損害を与えているためです。

先ほどの例でいえば、本来、会社は工事代金100を取引先に支払えばよかったはずです。
それなのに、キックバックの原資となる10を余分に支払わされ、損害が生じています。

もし、取引先がキックバックの事実を知りながら協力した場合、共犯となる可能性もあります。
ただ、キックバックの方法が巧妙で取引先は利用されていることを知らないこともあります。
ここは捜査・調査により解明する部分です。

本日のまとめ

表面化しないキックバック不正はかなり多いのだろうと思います。
実際、私も過去何件か従事したことがあります。

リーガルテックをてがけるFRONTEOの調べでも、回答者の25%が「過去5年で不正発生あり」と答え、発生した不正の種類(複数回答)は「労務・ハラスメント」が最も多く、次いで「横領・キックバック」ならびに「品質不正」となっているとのことです プレスリリース 。

キックバックは発見が難しいため、事前の不正防止の重要性が高い事案と感じています。