個人事業主は、生活者としての一面と、事業者としての一面を併せ持っています。
支出するお金についても、私的か、事業かの区別は付きにくいところです。
過去の事例などから、ロータリークラブの会費、同窓会費、政治連盟会費は必要経費と認められていません。
また、20万円以上の入会金、預託金は資産として計上されます。
家事関連費が必要経費と認められる要件
事業所得の計算で必要経費と認められるのは、
(1)売上原価等、収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
であることが基本です(所得税法37条)。
家事費、つまり、プライベートな支出は必要経費とはなりません。
家事費と業務の両方に関係するる経費(家事関連費)については、
(1)経費の主要部分が業務の遂行上得必要であり、かつ、その必要部分を明らかに区分できる部分
(2)青色申告者については、取引記録等に基づいて、業務を行ううえで直接必要であったことが明確にされる部分
が必要経費として認められます(所得税法施行令96条)。
過去の事例などから、次の5つについては経費とできないとされています。
ロータリークラブの会費
ロータリークラブの存在は知っていても、なかなか縁がありません。
各種奉仕活動などを行うほか、会員相互間の親睦も深める団体というイメージを持っています。
ところで、国税不服審判所の裁決事例集には、ロータリークラブの会費は事業所得の必要経費には該当しないとの記事が掲載されています。
この事例で必要経費として申告をしたのは公認会計士の方です。
おそらく公認会計士の方は、本来のクラブの目的と合わせ、経営者と交際することによって人間関係を築く意図もあったのだと思います。
裁決事例の要旨には、
ロータリークラブの例会を中心とする各種会合に参加し、各種職業の経営者と懇親を深め、社会的信用を高めることは、請求人の公認会計士としての業務に何らかの利益をもたらすであろうことは否定できないが、ロータリークラブに入会したこと及びその例会に参加することが主として業務上の必要性に基づくものであると客観的に認めることはできない」
出典 : https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0403130000.html
として、必要経費として認めていません。
必要経費に算入するハードルには高いものがあります。
参照 : 裁決事例集 No.25 – 42頁
同窓会等の会費、政治連盟会費
税務署は、歯科診療業を営む方が支出した同窓会費についても必要経費とは認めていません。
歯科医師であれば同窓会に参加する目的は、旧交をあたためつつ、同業者から情報を仕入れたり、人的つながりを構築して事業の役に立てたいという気持ちがあるはずです。
この事例でも歯科大学の同窓会となっています。
同窓会の性格、会費内訳書などを検討した結果として、
結果として請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことはあり得るとしても、同窓会の活動目的からして、同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当であり、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
出典 : https://www.kfs.go.jp/service/JP/61/12/index.html
としています。
同じ裁決では、日本歯科医師政治連盟への会費についても同様に必要経費と認めていません。
その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められず、仮に家事関連費であるとしても、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
出典 : https://www.kfs.go.jp/service/JP/61/12/index.html
税理士、行政書士にも政治連盟はありますが、その内容が日本歯科医師政治連盟と同様であった場合、必要経費に算入できないことになります。
参照 https://www.kfs.go.jp/service/JP/61/12/index.html
入会金(20万円以上)
税理士会、行政書士会の入会金は、本来は、繰延資産として資産計上することになっています。
繰延資産の定義にある
「自己が便益を受けるために支出する費用」
に該当するためです(所得税法施行令7条)。
入会金は一度繰延資産として資産計上し、5年間で均等償却、つまり、費用にするのが基本です。
ただし、20万円未満の入会金については、支出時の費用とします。
税理士会、行政書士会の入会金はそこまで高額ではありませんが(修正:行政書士会の入会金は20万円でした)、20万円以上の入会金については支出時の経費とすることができないのでご注意ください。
勘定科目としては「長期前払費用」を用いるのが一般的です。
参照 : 繰延資産の償却費の計算(令第137条関係) 国税庁HP
預託金
税理士会によっては、入会時に会館の建設・維持・運営等のため預託金を受け入れ、退会時に返還する制度を設けていることがあります。
同様の制度は他の士業団体にも見られるかと思います。
このような預託金は後日返還を受けることになるので、費用には該当しません。
事務所を借りるときの敷金と同様です。
本日のまとめ
必要経費の要件は、かなり厳しいものがあります。
「お金を払ったから経費」とすることができないので注意してください。
特に事業を開始したばかりの頃は、経理について不慣れな点が多いはずです。
判断に迷った場合は、国税庁のHP、信頼できる書籍等で確認をしながら進めていただければと思います。