突然の倒産が刑事事件となるとき

このところ企業倒産件数は増加傾向にあります。
人手不足、後継者不在、ゼロゼロ融資による過剰債務等さまざまな要因があるようです。

そのような中で、これまで順調に見えていた会社が突然倒産する事態も起こりえます。
先日は愛知県の予備校が突然閉校したとのニュースを目にしました。
過去には住宅メーカーが倒産し手付金として払ったお金が戻らず、さらには予定していた住宅が建てられなかったという事例もあります。

企業間取引であれば信用情報をチェックすることが可能かも知れませんが、個人が一企業の経営状況を調べるのは実際のところ困難です。

このような突然の倒産について、過去には刑事事件になった事例もあります。

過去の事例

手付金・前払金の受領を詐欺とした事例

住宅メーカーが突然倒産(その1)

2023年に愛知県の住宅メーカーの社長が、会社が債務超過で家を建てられる経営状態ではなかったにもかかわらず、手付金50万円を騙し取ったとして逮捕されています。裁判でも有罪となっています。

この事件報道を総合すると、

  • 会社は債務超過であった
  • 厚生年金や健康保険など、計約1,400万円の滞納があった
  • 2021年9月18日に「契約金は50万円です。来月から工事が始まります」など申し向け、同月21日に手付金を受領。同日、社長は破産申立人となる弁護士と面会
  • 手付金を支払った10日後に破産の通知が届いた

とのことです。

お金を受け取った日に、破産申立弁護士と面会しているということは

  • 破綻することがわかっていた
  • 手付け金を受領しても家が建てられないことを認識していた
  • それにもかかわらず、これを秘して手付金を受領した

ことになります。

このようなことから、詐欺として立件したものと思われます。

住宅メーカーが突然倒産(その2)

同様に2011年には埼玉県の住宅メーカーの経営者が、完成の見通しがないにもかかわらず、住宅建築工事を請け負い「前払金」名目で資金を騙し取ったとして逮捕され、有罪判決を受けています。

この事件も同様に

  • 会社は債務超過
  • 2009年1月には社員への給料支払いが遅れていた
  • 2009年3月に「ご希望どおりに家を建てます」などといって計20人から4,900万円を前払金名目で資金を受領
  • 同月24日に民事再生法適用を申請(却下され4月に自己破産)

と報道がされています。

この事案でも、民事再生法適用申請の直前に、高額な前払金を受領しています。
その2か月前には、給料の遅配も発生しているので、経営状況の悪化は経営者も認識していたことになります。
多額前払金を受け取っても引渡しができないことを認識していたでしょうから、これを詐欺として捉えることができたと思います。

図にするとこのような感じ

銀行に対する融資詐欺として立件した事例

晴れ着が渡せなかった

2018年の成人式の当日に振り袖が受け取れなかったという被害がありました。

時系列でみると

  • 2018年12月末に着付け場所となるホテルに会場代の入金がされず、1月5日に連絡したところ「社長と連絡がとれなくなっている」との回答。
  • 2018年1月8日の成人式の日に振り袖などが受け取れないという届出が多数寄せられる
  • 1,200着の振り袖は保管がされていた
  • 会社の負債総額は約10億8,500万円

この事件では、新成人に振り袖を引き渡せなかったことを詐欺としては立件されてはいません。
2016年9月に粉飾した決算書を提出して2つの銀行から融資金名目で計6,500万円をだまし取った事実で立件されています。

晴れ着を渡せなかったことが詐欺のようにも感じますが、おそらく成人式の着物、着付け費用の支払は数か月前。
その時点で、会社が倒産することを予見できたとするのは難しかったのではないかと思います。
詐欺として立件するには、代金を受取った時点で目的物を渡せないという認識が必要になります。

また、成人式当日に振り袖は渡せませんでしたが、一部の振り袖は保管されたいたということは、お金を受取った時点で騙すつもりがあったと立証するのは困難かと思います。
お金を払った時期と倒産時期が離れていると、どうしても立件のハードルは高くなります。

そのため粉飾した決算書で融資金を騙し取った事実で立件したものだと思います。

格安航空券会社の倒産

2017年に発生した格安海外旅行業者の倒産では、多くの旅行者が被害に遭っています。
海外旅行に出発予定だった方、海外旅行に出かけていた方々がに多大な混乱を与えています。

この事件も晴れ着事件と同様に、2つの銀行に対し虚偽の書類を提出するなどして計約5億4,000万円を融資金名目で詐取した事実等で立件されています。

旅行代金の詐欺ではなく、銀行に対する融資金詐欺として立件された理由は不明ですが、立証上の困難さがあったものと思われます。

本日のまとめ

会社が突然倒産して、刑事事件となる事例は少なからずあります。

刑事事件で逮捕、起訴、有罪判決が出たとしても、お金が戻って来るわけではありません。
ただ、刑事責任があるのであれば罪を償ってもらうことは必要です。
また、将来類似の事件が発生しないよう一定の抑止効果はあるかと思います。