このところ横領事件を目にする機会が増えたように感じていました。
気のせいかもしれないと思い資料を確認してみたところ、上のグラフのように令和4年から顕著に増加しています。
私の感覚は間違っていなかったようです。
横領事件が増加している原因について考えてみました。
横領事件の件数
横領件数の認知件数は、警察庁が発表している犯罪統計にデータがあります。
「横領」には「単純横領」、「業務上横領」、「遺失物等横領」がありますが、犯罪統計では「知能犯」としているので、ほぼ業務上横領であると考えられます。
年 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 |
件数 | 1,413 | 1,449 | 1,397 | 1,388 | 1,282 | 1,432 | 1,916 |
数字だけだと変化に気付きにくいので、視覚化したのが上のグラフです。
平成29年から令和3年にかけてはほぼ横ばい。
それが令和4年、5年と大幅に増加しています。
この傾向が今後も続くのかわかりませんが、グラフからは増加が予想されます。
増加の原因を考える
では、令和4年以降何が変わったのか。
原因を考えてみます。
インターネットバンキングの普及
金融庁が令和4年6月30日に発表した「金融機関の取組みの評価に関する企業アンケート調査」によると、小規模企業も含めて9割近い企業がインターネットバンキングを利用していることがわかります。
https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/220630/01.pdf
- 事務コストの削減
- 会計ソフトとの連動による記帳の省力化
- 銀行支店の統廃合
という流れからインターネットバンキングの利用が進むことは時代の流れです。
一方で、データ作成者と承認者を分離するという基本的な牽制が働かないと、経理担当者が好きなように送金ができてしまいます。
最近の横領事件報道をみると、会社の資金をインターネットバンキングを利用して自分、または、自分が管理している口座に振り込む手口が多いように感じます。
法人設立のハードルが下がった
最低資本金制度が撤廃されたのは平成18年のことで、新しいことではありません。
これに加えて、最近では法人登記手続の多くがオンラインで完結できるように進んでいます。
実際私も合同会社をつくってみたところ、
- 定款作成(電子署名)
- 登録免許税の支払い
- 法務局での登記手続
- 税務署への開業届
- インボイス番号の取得
まで、すべて自宅で完結させることができました。
株式会社の場合は、定款認証手続などが必要になりますが、オンラインでかなりの部分は済ませることが可能なはずです。
自分で会社をつくり、自分が勤務している会社に対し架空請求書を発行し、インターネットバンキングを利用して送金するということを行いやすい環境となっています。
会社側でも随時、支払先について実在性、取引事実を確認しないと不正が発生しやすくなります。
観察眼効果がなくなった
令和2年以降はコロナによるリモートワークが進んだ時期でもあります。
また、出勤しても席をパーティションで仕切るなどして、社会的接触が少なくもなりました。
私が警察に勤務している中でも、飛沫感染防止のため執務室を個々人で区切ったため、周囲の行動が見えづらくなったことを覚えています。
不正は人の視線があるとやりにくいというのが、経験上いえます。
経験だけでなく「Watching-eye effect(観察眼効果)」として証明されています。
参考Wiki https://en.wikipedia.org/wiki/Watching-eye_effect
上記WikiをGoogle翻訳で日本語にすると、冒頭には次のように書かれています。
観察眼効果とは、人は目を描いた画像があると、より利他的な行動をとり、反社会的行動が少なくなるというものです。なぜなら、これらの画像は、自分が観察されていることをほのめかすからです。目は人間にとって強力な知覚信号です。目が描かれているだけでも、私たちの行動が見られ、注目されていることを意味します。
これらの効果は非常に顕著で、目の描写だけでも誘発に十分であることが実証されています。つまり、実際に監視されている必要はなく、目の写真だけでも監視されているという感情を誘発するのに十分であり、それが行動をより向社会的に、より反社会的にしないよう影響を与える可能性があります。経験的心理学的研究では、目が描かれた画像が目に見えると、人々はわずかではあるが測定可能なほどより誠実で、より向社会的行動をとるようになることが繰り返し示されています。
「人の眼」があるだけで
- ゲームでお金などを分け合う傾向が高まる
- バス停でゴミを拾ったり、カフェテリアで片付けをしたりする可能性が高くなる
- 自転車を盗む可能性が低くなる
などの実験結果が示されています。
現在では多くの会社ではパーティションが撤去されているかと思います。
また、リモートワークから出勤への動きも行われています。
リモートワークは多様な働き方の一環として決して否定するものではありません。
ただ、不正防止の観点からすると、監視眼効果が薄れてしまうことになります。
本日のまとめ
このところ横領事件を目にする機会が増えたように感じていました。
資料を基にグラフにすると、令和4年から顕著に増加しており、私の感覚とも合っている気がします。
業務上横領は、会社、周囲の従業員、会社経営者にとって不幸なことです。
被害に遭う前に不正を防止する体制を構築していただければと思います。