名誉毀損、侮辱罪は「親告罪」に該当し、「犯人を知った日」から6か月以内に告訴をしなければなりません。
この6か月の期間を「告訴期間」といいます。
ネット上に誹謗中傷が書かれているのを発見した日から6か月が経過してしまった場合、それでも告訴ができるのか。
過去の裁判例では一定の要件の下で「できる」とされています。
絶対的親告罪
名誉毀損罪、侮辱罪は「絶対的親告罪」であり、「犯人を知った日」から6か月以内に告訴をする必要があります。
インターネット上に誹謗中傷がされていることを発見してすぐに告訴をすれば問題ありません。
ただ、そのうち消されるだろうと思っているうちに、6か月を経過してしまうかもしれません。
また、そもそも「犯人を知った日」とはいつ時点をいうのかも分かりにくいといえます。
これらの点については、過去の裁判例が参考になります(リンクは「裁判所ウェブサイト」)。
事件の内容
先ほどのリンク先の事件について、時系列的に書くと
平成13年7月5日 被告人がインターネットに名誉毀損記事を掲載
平成13年10月4日 被害者が書き込みがされていることを知る
平成15年3月 被告人が警察を通じてホームページ管理者に削除依頼
平成15年4月22日 被害者が告訴
平成15年6月 記事がサーバーから削除される
となります。
被害者は平成13年10月に書き込みがあったことを知っています。
そして、告訴をしたのは平成15年の4月です。
この告訴について被告人側から、平成13年10月4日に「犯人を知った」のだから、そこから6か月を過ぎた後にした告訴は告訴期間を経過していると主張があったものです。
結論
結論から先にいえば、次のような判決文になっています。
刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは,犯罪終了後において,告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい,犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても,その日をもって告訴期間の起算日とされることはない。
サーバーコンピュータから削除されることなく,利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので,被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから,このような類型の名誉毀損罪においては,既遂に達した後も,未だ犯罪は終了せず,継続していると解される。
つまり、インターネットに誹謗中傷が書き込みがされた時点で既遂となるが、閲覧が可能な状態では犯罪が終了したとはいえず、犯罪の継続中に犯人を知ったとしてもその知った日が告訴期間の起算日とはならないということです。
最初に書き込みを発見した日ではなく、犯罪終了後に犯人を知った日が「犯人を知った日」になるということになります。
削除依頼がされていた場合はどうか
この判決文では、削除依頼についても言及しています。
(削除依頼は)抽象的危険を解消するために課せられていた義務を果たしたと評価できるから,爾後も本件記事が削除されずに残っていたとはいえ,被告人が上記申入れをした時点をもって,本件名誉毀損の犯罪は終了したと解するのが相当である。
実際にインターネット上に記事が残っていたとしても、削除依頼の申入れをした時点で名誉毀損の犯罪が終わったとするのが相当としています。
つまり、削除依頼をした日から6か月以内に行った告訴を有効としています。
本日のまとめ
以上のように、インターネットの書き込みは、書き込まれてから閲覧できない状態になるまで(ただし、削除依頼がある場合には削除依頼の日まで)犯罪は終了していないことになり、そこから6か月以内の告訴は有効とされています。
とはいえ、告訴が遅くなると、書き込みをしたときの記録がプロバイダー側から削除されてしまう可能性があります。
誹謗中傷に気付いたら、できるだけ早い時期に告訴を行った方がいいのかと思います。