財務捜査を進めるに当たって、どの程度の簿記レベルが必要になるのでしょうか。
簿記は必要か
財務捜査といえば、まず簿記です。
帳簿の内容を調べ、事件捜査を行うわけですから、簿記がわからないと先に進めません。
もちろん帳簿を付けるわけではありません。
帳簿に書いてある内容を読み取るわけです。
立場の違いはあっても、簿記は財務捜査をするうえで必須の技能です。
簿記のレベル
では、どの程度の簿記レベルが必要となるかという前に、簿記検定についてです。
現在行われている主な簿記検定は、次のようなものがあります。
略称 | 主催団体 | 試験名 |
---|---|---|
日商 | 日本商工会議所 | 簿記検定 |
全経 | 公益社団法人全国経理教育協会 | 簿記能力検定 |
全商 | 公益財団法人全国商業高等学校協会 | 簿記実務検定 |
一般的に、社会人が受検するのが日商簿記検定になります。
ただ、全経、全商もメジャーな検定です。
税理士試験の税法受験資格の一つに、
- 日商簿記検定1級合格者
- 全経簿記検定上級合格者
とあるのでこの2つは、ほぼ同等の難易度なのでしょう
(税理士試験の「会計学に属する科目」については、受験資格は撤廃)。
全商が受験資格にありませんが、商業高校が対象となっている関係かもしれません。
税理士試験の税法科目受験資格の一つに大学、短大等の卒業者というのがあります。
そのバランスなのかもしれません。
ただ、日商、全経、全商とも簿記試験としてはポピュラーです。
日商3級で何とかいける
財務捜査官についていえば、募集要項がおおむね、公認会計士、税理士の資格者。
日商簿記1級程度の知識は皆さんお持ちです。
ただ、実務で考えた場合、簿記のレベルは日商2級程度でもほぼ対応可能。
3級程度でも何とかいけるかもしれません。
財務捜査官でなければ、2級があれば十分かと思います。
理由その1 事件のほとんどが、現金、預金に関係するから
粉飾決算などを除き、財務捜査が対象とする事件では、お金絡みがほとんどです。
- 贈収賄 賄賂に現金を受渡しする
- 詐欺 現金を騙し取る、騙して預金口座に振込させる
- 横領 現金を着服する、口座に送金して着服する
という感じです。
勘定科目でいえば、現金勘定、預金勘定。
この2つの動きと、相手勘定の意味がわかれば、お金の動きはわかります。
その他の取引が絡むこともありますが、最後はお金になります。
理由その2 ほとんどは普通の取引
大企業の取引といっても、そのほとんどが小さな会社の取引と同じです。
- 商品を仕入れて販売する
- 掛取引を精算する
- 従業員に給料を払う
- 経費を支払う
このような取引の繰り返しです。
もちろん企業規模が大きくなってくると、金額も大きくなり、取引内容も複雑になってきます。
- 国外取引
- 外国為替
- 社債による資金調達
- グループ企業間取引
などは普通に行われます。
子会社、関連会社も相当な社数にのぼります。
ただ、日常取引レベルでいえば、どこの会社でも行っている取引が反復継続されていることがほとんど。
日常的に社債を発行するわけではありませんし。
もちろん、難しい取引にも対応できるのが望ましいことはいうまでもありません。
ときにそのような知識も必要となります。
そこは財務捜査官の専門分野。
それでも、難解な取引が頻繁に出てくることは稀です。
基本的な取引が大半を占めます。
本日のまとめ
簿記のレベルが高い方が複雑な事象を解明するすることができます。
3級よりも2級、2級よりも1級の方が、同じ帳簿を見るにも視点も違ってきます。
私個人的には、日商2級というのが一つの基準のように思います。
日商3級だと、
- 工業簿記がない
- 減価償却は定額法のみ
など、ちょっと実務的には不足かなと思います。
それでも帳簿が読めるというメリットは大きいです。
まったく読めないより、ずっといいです。